印、中国の脅威に備え海軍力増強
Japan In-depth / 2020年10月9日 11時0分
「インドは本来、海洋国家なのだが、過去においてインド洋の軍事戦略的、地政学的な意義をやや軽視してきた傾向がある。だがその傾向は近年のインド洋をめぐる軍事、非軍事の新たな動きのために変わってきた。その面でのアメリカとの協力は新潮流だ。インドにとってアメリカは長年、政治、軍事の距離をおき、むしろ脅威に近い存在だった時代もあったが、いまではインド洋での安全保障上の貴重なパートナーとなった。インドとアメリカはインド洋をめぐって共通の懸念を分かち合うようになったのだ」
ジャイシャンカル外相がここで語る「懸念」とは疑いなく中国への懸念を意味していた。より具体的には中国の海洋上の軍事的な拡張である。
インドにとって中国は長年の軍事脅威だった。インド、中国の国境、カシミール地域などで過去に実際の軍事衝突を繰り返してきた。だがその軍事面での対立や衝突は地上に限られていた。海洋での中国とインドとの対立はほとんど戦略面での論議を生まなかった。
ところがここへきてインド側が海洋での中国の脅威を意識して、対応策を積極的にとるようになったのだ。その最大の理由は中国の海軍の増強、とくにインド洋への活動の拡張である。だがその背後にはさらに大きな要因がある。まず新型コロナウイルスでのインドの大被害による中国への敵対的な国民感情の増大、そしてそれに反発する中国がインドとの国境で軍事侵入を始めたことだった。だからインドでは官民がともに中国への反発や抗議を露骨に表すようになったのだ。
インドは2021年度の国防費を前年度より9%以上増加して、669億ドルにまで引き上げた。この金額は世界各国の国防支出のなかでも第四位である。アメリカ、ロシア、中国に次ぐわけだ。インド政府はこの国防費のうち海洋戦力の増強への比重を増し、二隻目の国産の航空母艦や潜水艦、各種の海上戦闘艦の建造を急いでいる。その海洋戦力の強化の意味についてインド海軍の最高司令官を務めたアルン・プラカシュ提督が米紙に次のように語っていた。
「中国軍の全体的な戦力増強に対して、インドがいくら抑止に力を入れても地上での対立ではせいぜい現状維持、たがいに均衡状態を保つことがベストの結果になる。だが海洋ではインド海軍が力を誇示して、中国側の海軍だけでなく、海上輸送路の弱点を意識させることができる。中国側に対して、有事には海上で中国側の輸送路を遮断するぞというメッセージを送り、優位に立てるわけだ」
インド海軍はさらにアメリカその他の対中有志連合の諸国と兵站上の協力関係をも強めてきた。海上での海軍活動の展開や継続のためにアメリカなどの諸国の海軍の支援を得られるという兵站上の相互援助の協定をすでに結んだのだ。インドはこの二国間の協定をオーストラリア、フランス、韓国などとすでに個別に結んで、日本とも同じ趣旨の協定調印を意図しているという。
だからインドのいまの海洋戦力の増強はまず中国への抑止であり、米国やオーストラリアなどとの国際連帯の防衛強化策だともいえよう。日本にももちろん意味のある新潮流である。
(この記事は 一般社団法人日本戦略研究フォーラムのサイトの「古森義久の内外抗論」という連載コラムからの転載です。)
トップ写真:モディ印首相とインド海軍の潜水艦(2018年11月) 出典:Narendra Modi facebook
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