サウジ、イエメン撤兵へ【2021年を占う!】中東
Japan In-depth / 2020年12月29日 23時0分
■ 国際情勢の変化
二つめは国際情勢の変化である。これも介入継続を難しくする。
まずは米国支持の弱化だ。
これは政権交代がもたらす影響である。
トランプ政権は一応はイエメン介入を支持する立場にあった。親イラン勢力の伸長は望ましくはない。対イラン強硬態度からそのような態度にあった。(*1)
それがバイデン政権で変化する。対イラン態度は軟化すると予想されている。またイエメンにおける人道問題や米国製武器の拡散問題もおそらく重視されるようになる。
またイランが影響力を拡大する。イエメン内戦も含めて敵方にあたる勢力が強力となるのだ。
原油価格下落の影響である。コロナ流行により20年前半はバレル20ドル前後、今年後半は40ドル前後でしかない。
この状況では産油国の力は弱くなる。国家の収入が減るためだ。
だがイランはその影響をあまり受けない。原油は事実上の禁輸状態にある。まがりなりにも原油に依存しない経済体制を作り上げている。
イランの影響力は相対的に大きくなるのである。
最後がUAEとの共同介入の破綻だ。19年からは逆に親サウジの暫定政府への攻撃を始めているのである。
これらによりサウジの立場は悪化する。イエメン介入継続を難しくする。その方向に作用するのである。
■ 国内体制の変化
三つめは国内事情の悪化である。それにより皇太子指導体制の力量は低下する。結果、介入継続を難しくなる。
原因はすでに述べた原油価格の低迷である。サウジ財政は原油価格60ドルから80ドルでよううやく歳入歳出が均衡する。現在の40ドルが続くと種々の無理がでてくる。
それによりパンとサーカスの水準維持も難しくなる。サウジは国民に生活、娯楽、福祉を無料で提供してきた。その財源は原油輸出による外貨収入である。
そのきざしもある。2018年に導入された付加価値税の増税である。原油減収を補うため今年はいきなり税率3倍の15%に増税された。これは実質的な提供水準の切り下げだ。
この水準低下で何が起きるか?
体制への不満が高まる。これまでパンとサーカスで抑え込んでいた社会問題や諸矛盾が噴出しやすくなる。例えば自由、人権、民主主義、王政や現指導体制への不満である。
それにより皇太子の政治指導力も削がれる。
▲写真 サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子 出典:Wikimedia Commons; Mazen AlDarrab
もともと政治はうまく行ってはいない。経済・社会改革は成果を上げていない。外交も米大使館エルサレム移転やトルコでのジャーナリスト殺害と失敗が目立つ。
その指導力が更に弱化する。
特に不人気な政策は無理押しできなくなる。イエメン介入はまったくそれにあたる。介入自体への賛否はともかく勝利が得られていない戦争である。
これも撤兵を検討させる要素となる。
もちろんその様態はわからない。いつ撤兵するか。一撃による勝利演出のあとか。逆に政治や戦場での一大敗北によるか。それは読めない。
だが介入継続は困難となるのである。
(*1) ただ、トランプ政権でもさほどの支援はしていない。トランプ政権でも軍事力の提供はしていない。19年9月にサウジ石油施設が攻撃されても冷淡であった。また19年末からの有志連合による艦隊展開でもイエメン内戦への肩入れとはならなかった。
トップ写真:フーシ派が収容所として使っていた大学へのサウジ主導連合軍による空爆で多数の死傷者が出た。(イエメン南西部ダマル 2019年) 出典:flickr; Felton Davis
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