ベトナム戦争映画から受けた衝撃
Japan In-depth / 2021年3月22日 23時0分
私にとってはたとえ映画であるにせよ、ベトナム戦争という出来事の再現は迫真の衝撃を感じさせられる。なにしろその戦争のなかで4年近い年月を過ごしたからだ。もちろん戦闘に加わったわけではない。
だがその間、米軍や南ベトナム政府軍に同行して戦場の取材にあたったことも数えきれないほどあった。逆にその敵側の北ベトナム政府軍や南ベトナム解放戦線軍に同行した体験もあった。そしてなによりもその戦火の下で生きるベトナムの人たちと同じ社会で暮らしたのだった。
こうした経験はすべて現地から毎日新聞の記事として報じたほかに、単行本でも『ベトナム報道1300日』(筑摩書房1978年刊、後に講談社文庫)や『ベトナムの記憶』(PHP研究所1995年刊)にまとめた。
私がベトナムに赴任したのは1972年4月だったから、この映画の主舞台の戦闘はすでにその6年も前に起きていた。だが戦争自体は72年にはかつてない規模の地上での大規模衝突となっていた。
そのころ私自身も映画「ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実」に登場するようなアメリカ軍の陸軍、空軍の部隊について戦況を報道することも珍しくなかった。
ちょうど映画に登場する米軍の小さなヘリコプターに同乗して、地上の敵に向かって機上の機関銃を構える兵士たちの背後に座っていたこともあった。
私がこの映画にすっかり引き込まれた理由のひとつはアメリカにとってのベトナム戦争が1975年4月に終わった後、その翌年からワシントンに赴任して、アメリカでのベトナム後遺症を多様な形で目撃したことでもあった。大きな挫折、大きな失敗に終わったベトナムへの軍事介入をアメリカの国家として、社会として、そして人間個人としてどう受け止めるかをめぐる苦悩がアメリカ全体を暗い雲のように覆っていたのだ。
そして敗北し、国家を失った南ベトナムからの何十万というベトナム難民たちがアメリカに逃れて、新しい生活を始めてきた。個人的にも交流のあった多数のそのベトナム人たちの心情の一端も直接に知ることともなった。
アメリカではベトナム戦争を主題とした映画も多数、制作された。だがその戦争の終結からすでに45年もが過ぎた2021年という時点で封切られるベトナム戦争映画は珍しかった。もっともこの映画がアメリカで完成したのは2年近く前の2019年だった。
日本での封切りが遅れたのだ。
私はここ数年、ワシントンでの報道活動をなお続けながらも、東京で仕事をすることもあり、日米両国間を数ヵ月単位で往来する生活だった。だが今回だけはアメリカでの新型コロナウイルスの大感染のための制約により、日本での滞在が長くなった。その間にこの映画を東京の新宿の映画館で観ることとなったのだ。久しぶりのベトナム戦争映画とあって、2度も観賞してしまった。
私にとってのこの映画の魅力のひとつはベトナム戦争自体の政治的な善悪は問わず、もっぱら戦場で発揮される人間の強さや弱さを主題としている点だった。とくに主人公の若者の自己を犠牲にして、戦友たちを救う行為、戦場でのヒューマニズムという概念自体が矛盾なのかもしれないが、無私や献身という精神に魅せられた。この物語の根幹はすでに述べたように、現実に起きた出来事だったのだ。
ベトナム戦争を実際に体験した数少ない日本人としての最新のベトナム戦争映画の報告である。
▲図 「ベトナム報道1300日 ある社会の終焉」(著:古森義久) 出典:講談社Book倶楽部
▲図 「ベトナムの記憶-戦争と革命とそして人間」(著:古森義久) 出典:PHP研究所
トップ写真:ベトナム戦争 出典:Bettmann /GettyImages
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