円高は悪?日本企業の円高耐性と生産性の関係
Japan In-depth / 2021年10月2日 12時48分
▲写真 マクドナルドのハンバーガー(2018年09月02日) 出典:Photo by Kris Connor/Getty Images for McDonald's
この購買力平価の考え方からすると、日本円は現在、1990年代以降、最も安い圏内にある。そうであっても、これからもしまた円高が進めば、産業界からは何とかしてほしいとの声が強まるかもしれない。どうしてインフレ率の格差分の円高、今で言えば日米のインフレ率格差は約5%程度だが、その程度の円高でも問題になるのだろうか。
米国の市場で価格競争しているのは、米国企業と日本企業だけではない。新興国の企業も含め、厳しい競争が展開されている。その下で、日本企業がインフレ分の現地価格を引き上げることさえ難しいとすれば、それは競争力の面で劣位に追い込まれているからだろう。ひどい表現になるが、日本企業全体として儲からない商売に追い込まれていれば、少しの円高でも困ることになる。
■日本企業の競争力の回復と円高耐性
こう考えてくると、どんな円高でも悪なのか、あるいは、日本企業の価格競争力の低下が本源的な問題なのか、という疑問が生じる。米国経済は、1980年代の日本との競争を通じて、マクロ的には儲からないビジネスからさっさと撤退しまった感がある。それが2000年代以降のプラットフォーム企業群の隆盛に繋がっている。もっともその一方で、それまでと同じビジネスを続けたい企業にとっては厳しい経営状況が続き、それが社会分断の背景にもなっている。
日本経済が米国経済と全く同じアプローチを採るべきとは思えない。しかし、日本企業の生産性を向上させよとの声もしばしば聞かれる。その生産性向上のためには、これまでと同じビジネスモデルに固執することもまた受け入れられないはずだ。実際、新興国の企業との競争の中で、撤退せざるを得なくなったビジネスは数多くあり、その結果、日本の貿易収支は足元では平均すればほぼゼロ近傍となっている。
米国で取り残されたビジネスが集中する五大湖沿岸の地域は、しばしば「錆び付いた帯(ラスト・ベルト)」と呼ばれる。もし日本企業が、全体として儲からないビジネス分野に追い込まれたまま、インフレ率の格差分の円高でさえ受け入れることができない状況が続けば、日本は「錆び付いた列島」になってしまうかもしれない。
日本企業が、高生産性分野へとビジネスの転換を進め、全体として第三国市場での価格競争力を回復していけば、少なくともインフレ率の格差分の円高に対しては耐性を持てるようになるはずだ。もちろん、そうした変化に対応するための社会のコストは決して小さくはない。しかし、それを受け入れていかないとはっきりとした日本経済の生産性向上は実現しない。その変革のコストを受け入れた上で、果実を社会全体が納得できるかたちで分かち合う。これからの日本は、是非そうでありたい。新しい政治の風にも期待するところ大だ。
トップ写真:トヨタ自動車のヤリスの生産ライン(2017年11月11日、フランスのバレンシエンヌ近郊オネン) 出典:Sylvain Lefevre / Getty Images
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