生産性向上、その先が問題 賃金上昇にどう結び付けるか
Japan In-depth / 2021年10月30日 15時0分
ではさらに、何故そういう辛い状況に陥っているのだろうか。それは要するに、日本経済全体としてみて、企業があまり儲からないビジネスの分野に追い込まれているからだ。他の先進国にはもっと儲かっている企業がたくさんあるし、人出不足の企業も多い。そういう企業の数が日本では少ないから、結果的に全体でみた時の労働の取り分が減ってしまうのである。
もっとも、海外でも苦境に陥っている産業はある。日本より高い成長を遂げてきた米国でも、五大湖沿岸の製造業が主力の地域では、企業が衰退し、そこで働く労働者の賃金は上がっていない。その結果、例えばIT産業に勤めている労働者と、そうした伝統的な製造業の労働者との間には、大きな所得格差が生じている。それが米国社会の分断の背景にもなっている。儲かる企業と儲からない企業があるのは、先進国経済に共通のことなのだ。
■ どうしたら賃金が上がるか
こうした状況において、平均的な一人当たりの賃金が持続的に上昇していくためにはどうしたら良いか。ひとつは、儲かる企業を増やし、そこでの雇用を広げることだ。これは言うは易し、行うは難しだ。政府は、企業はもっとリスクを取って投資を行えと言うが、儲かる投資があれば言われなくても投資しているだろう。何が儲かるか分からないから、安全策をとる企業が多いのである。文字通り不確実性の時代なのだ。
とは言え、立ち止まっていてはじり貧なことも事実だ。前に進むためには、会社経営における試行錯誤がもっと受け入れられなくてはならない。うまくいくこともあるし、いかないこともある。株主、金融機関、従業員、取引先、それら企業の関係者が、経営者による挑戦をポジティブに受け止めないと、なかなかリスク・テイクは広がらない。もちろん、そのためには経営者が、経営の方針を本音で丁寧にかつ説得的に説明する必要がある。
そうした過程を通じて、儲かるビジネスの発見が進み、そこでの雇用者が増えていけば、平均的な賃金も上がる。だが、それだけでは米国社会の分断と同じことになる。ここで出てくるのが分配の話だ。経済全体の生産活動の成果をどう分かち合うか。古来から、それは人間の社会において大きな問題であり続けてきた。成長と分配は常に対の問題だ。成長だけに焦点を置いても社会は不安定化するが、分配だけを重視しても経済の活力は増さない。
■ 所得を安心して使えることも大事
さらに、所得が増えたとしても、それが消費に結び付かないと、所得増がさらなる経済成長に繋がるという良い循環は生まれない。使われない所得はつまり貯蓄であり、それは企業の資金調達の原資になる。しかし、企業がなかなか儲かるビジネス・チャンスをみつけることができない状況で、いくら資金が調達できても、それでは経済は元気にならない。今日の超低金利はそうした中で起こっている現象だ。
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