北方領土「2島返還」から転換か 林外相「〝4島〟が日本の立場」と明言
Japan In-depth / 2022年1月16日 12時22分
岸田内閣の北方領土問題に望む基本方針になるのかもしれない。
■ 歓迎すべき「4島返還」への回帰
「4島返還」をいっそうにじませた林発言は、日本の国益を考えれば、むしろ歓迎すべきだろう。
「2島返還」は主権放棄につながるからだ。
国後、択捉、歯舞、色丹の4島は、歴史的にみて一度も他国の領土になったことがない。
日本とロシアの初めての外交取り決め、1855年の日露通好条約でも、国境は「エトロフ島とウルップ島との間にあるべし」と明記されている。詳細に立ち入ることは避けるが、そのほかの文書、歴史的経緯からも、日本固有の領土であることは明らかだ。
しかし、旧ソ連は、太平洋戦争で日本が降伏した直後の昭和20年8月末から9月にかけて、混乱につけ込んで、武力をもって4島を不法占拠した。その後も居座り続け、日本の返還要求に応じず、今日までその状態が続いている。
シンガポール合意において安倍首相が、歯舞、色丹の2島返還という大幅譲歩をしたのは、先方のかたくなな態度を考慮、2島だけでも取り戻すことができるなら、とりあえず実現し、国後、択捉については、共同経済活動の特区として双方が実利を得る手段を講じるのが得策という判断だった。
1996年、安倍氏の地元、山口県・長門で行われたプーチン大統領との首脳会談で、安倍氏が漁業、医療、環境など8項目の共同経済活動を提案したのも、2島返還への布石だった。
■ シンガポール合意はもはや根拠失う
しかし、案の定というべきか、シンガポール合意での譲歩、共同経済活動という提案にもかかわらず、ロシア側はその後も返還に応じる意思をみじんもみせていない。
2021年は、北方領土で軍事演習を繰り返し、7月下旬には、ミシュスチン首相が択捉島訪問を強行。同時期、プーチン大統領は、北方領土について前年の憲法改正に盛り込まれた「領土割譲の禁止」条項を盾に、北方領土の返還が困難なことをあらためて明確にした。
この間、安倍首相は、シンガポール合意を見直すのか、維持するのか明確にしないまま2020年初秋に退陣。後任の菅義偉政権も、何らの決定をすることなく、約1年で総辞職してしまった。
こうした経緯を考えれば、シンガポール合意は、もはやその根拠を失ったと考えるべきだろう。
1月13日の記者会見で、林外相は、シンガポール合意が依然効力を持つのかについては言及を避けた。当事者である安倍元首相への配慮と、首脳間の合意を破棄したと受け取られることへの影響を考慮した判断があったのかも知れない。
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