ウクライナ巡るプーチンの思惑と米の対応
Japan In-depth / 2022年2月17日 23時0分
さらにプーチンにはさらに別な狙いもあった。それは、ウクライナ南東部のドンバス地方を第二のクリミアにしようというものである。2月15日、ロシア議会は、ドンバス地方のいわゆる『ドネツクとルハンスク人民共和国」独立を認めることを要請する決議を採択して、プーチン大統領に送った。これらの地方は、クリミアのように多くのロシア人が居住しており、クリミアのロシアへの併合後、ロシアの力を借りて独立運動を行い、武力抗争を続けているところである。
独立の承認はその後ロシアへの併合の口実になる。ロシアの言い分は、2015年に合意したミンスクII合意が遵守されていないというものである。ドンバス地方の併合は、これまでの危機を作り出さなくても可能な選択だという見方も強かったが、危機によって一定の成果が見られない時には、政治的面子を保つ上で残しておいた手段だった。
今回の危機で米国をロシアに引き出して交渉の場につかせ、西欧諸国の政治リーダーがクレムリン詣でを行うことによって、ロシアの威信回復をも狙った。プーチンの賢い政治的戦略だった。
これに対し、米国もかなり巧妙に対応を練っていると言える。それは、一つには情報戦である。米国は、冷戦時代からロシアの軍事情報は十分持っており、現在でも衛星や空中写真、通信、その他の手段を使って詳細なロシアの軍事情報を得ている。通常は、そのような情報は機密扱いされるが、今回は、ロシアの足を引っ張るように公表し続けている。常にロシアの先手を取っているのである。
ロシアが、ウクライナ国境沿いに大規模な部隊を集結させている写真を公開したり、ウクライナ国内であたかもロシアを挑発するような行為をしているとか、侵略した場合には、多数の文民が犠牲になるといった反ロシア感を増長させるような情報を流すことである。こうした心理作戦は、プーチンの一連の心理作戦の逆をつくことになり、プーチンに侵略の意図はないと言わせざるを得なくなる。侵略の意図はないと言って侵略すれば、プーチンは自らの信頼性を国際的に失う事になるのである。
米国は、さらに、侵略があった場合には、SWIFTという銀行の金融取引のツールを使わせなくしたり、ドイツに圧力をかけて第二のノードストロームというガスパイプラインの使用を認めないといった一連の経済措置を取り、ロシア経済に甚大な損失を与えると警告してきた。
これは、単に米国だけの制裁だけではなく、EUや日本を含めた西側諸国の連帯した措置になる。ロシアとしては、背後に中国がいるとは言え、資源輸出に頼る経済が大きなダメージを受けることは間違いない。経済が長期的に停滞すれば、今回いくら国内の支持を高めても、いずれはプーチン自身への政治生命の危機が訪れる可能性が出てくる。ロシアの全面的なウクライナ軍事侵攻は、プーチンにとっても極めて危険な賭けとなる。
バイデン大統領は、ロシアは敵ではないとしてロシアに政治交渉の手を差し伸べている。プーチンにとっては、米国との継続的交渉によって、ウクライナのNATO非加盟とロシアの安全保障への何らかの政治的言質を取りにいくのではないだろうか。これが現実的な危機の回避になるように思われる。
トップ写真:新たに制定された「統一の日」に独立広場に集まるキエフ市民ウクライナ・キエフ(2022年2月16日) 出典:Photo by Chris McGrath/Getty Images
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