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日本外交の診断 兼原元国家安全保障局次長と語る その5 経済産業省の大罪とは

Japan In-depth / 2022年3月29日 14時20分

兼原 当時の大企業幹部や通産官僚は、ダムの発電機や原発といった大規模案件にしか興味を示さなかったのです。彼らにとって半導体は白物家電の部品でしかなかった。


 ところがアメリカ側は、これから半導体が安全保障技術のコアになる、と確信していました。安全保障でほぼ完全に依存しているくせに、経済面で対等に張り合おうとする日本の戦略的方向性を危惧したアメリカは、世界市場を席巻した日本の半導体産業を締め上げたのです。その後、米企業の半導体の受託生産は、中国、台湾、韓国の企業に完全に奪われてしまいました。


古森 通産省の大罪ですね。


 


古森 アメリカはここ数年、とくにトランプ政権のとき、中国のサプライチェーン(供給網)から撤退し、中国依存から脱却しようとしました。アメリカ議会の対中強硬路線には、アメリカ企業は同意はしていなくても、実際の要請には素直に従います。マイクロソフトやアップルのような大手IT企業は、ネット上で政権首脳の悪口を発信するアカウントを即座に特定できるソフトウェアを中国で販売していた。しかし、アメリカの議会と政府の警告により、経済安全保障政策に基づき販売を停止しています。


兼原 アメリカ企業も、日本企業のように中国抜きではビジネスできません。米自動車メーカーのフォードはまだまだ中国で車を売る気ですし、世界最大の航空宇宙機器開発製造会社のボーイングは、アメリカ議会で「親中企業」と叩かれても、中国ビジネスをやめようとしません。


 しかし日本企業と違うのは、ビジネスと安全保障のバランスをうまく取っていることです。フォードは中国に情報を盗まれないよう難解な暗号を使っている。ボーイングは「台湾の戦闘機はボーイング製ですよ」と巧みに反論しています。


古森 日本の経産官僚の仕事は、財界の幹部と親密な状態になることなのでしょうかね。中国ビジネスから撤退するようなことをすれば、財界の反感を買う恐れがあると戦々恐々としているのではありませんか。


兼原 とはいっても経済同友会は変わりつつあります。経団連はファーウェイが加盟しているため、呻吟(しんぎん)しているのかもしれませんが(苦笑)。


 どこの国にも体系的な対中政策などありません。対中政策を考えるうえで一番大事なのは、安全保障、ビジネス、そして自由・人権といった普遍的な価値観……この異なる三つの次元のバランスをうまく取ることですので、優先順位が問題なのです。「自由で開かれたインド太平洋」構想が一気に世界に広がったのは、この三つのバランスがうまく取れていたからにほかなりません。   


古森 しかし日本政府は、どれを優先すべきか明確な意思を示していません。


 (その6につづく。その1、その2、その3、その4)


 


●この対談は月刊雑誌WILLの2022年4月号からの転載です。


トップ写真)経済産業省


出典)Dick Thomas Johnson / flickr


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