ロシアが突きつける核の脅威 その2 プーチンは本気か「はったり」か
Japan In-depth / 2022年4月18日 19時0分
▽同時にプーチン大統領はいまウクライナでの戦闘に苦労しているロシア軍将兵に対して軍事的勝利のためには究極の手段として核兵器まで使う覚悟があるという姿勢の明示でその士気を高める効果を期待している。
▽プーチン大統領の核威嚇の第二の理由としては、ウクライナを支援するアメリカやヨーロッパの政治指導層への警告が考えられる。
▽米欧の政治指導層はロシアの軍事ドクトリンでは紛争に際して非核の相手国に対しても小型の戦術核兵器を使うことが認められている事実を認識しており、今回のロシア側の動きを空疎な威迫とは受け取らないだろう、とプーチン大統領は考える。
▽その結果、米欧はロシアの動きに警戒と懸念を高め、結束を弱め、ウクライナへの軍事支援もある程度、抑制することが期待される。
ボルトン氏は以上のようにプーチン大統領の核の脅しの意図を読んでいた。本来、ロシア国民への激励と米欧側への警告とを意図する政治プロパガンダの要素が強い、と指摘するのだった。
しかし、ボルトン氏は同時に、より慎重な見方をとって、場合によってはプーチン大統領は本当にウクライナでの戦術核兵器の使用を考えている可能性をも強調していた。
その部分の記述は以下の骨子だった。
▽ロシアの核戦略は地域的な戦闘での小規模な戦術核兵器の先制使用は排除しておらず、その使用がありうることも明記している。だからウクライナでのロシアの核兵器使用が1945年以来の全世界での初の戦闘上の核使用となる危険も決して排除できない。
▽プーチン大統領はウクライナでの戦況がロシアにとって悪いままならば、ロシア国内での反発が激しくなり、政権を失うかもしれない。通常戦力だけでの戦闘ではウクライナを屈服できず、その苦境が続き、自身の政権が倒れる見通しが強くなれば、その打開に核兵器の使用に踏み切る可能性がある。
ボルトン氏は以上のように「ロシアの核兵器使用」というシナリオの現実性が実際にはそれほど高くない、と注釈を強調しながらも、なお「ありうる事態」と総括していた。そのうえで「私たちはプーチンの核の脅しを衝動的ではなく、真剣に受け止めねばならない」と結んでいた。
ただし、ボルトン氏のこの見解発表の数日後の時点ではアメリカ軍部はロシア軍の核戦力部隊に新たな動きはみられない、という情報をもらしていた。ボルトン氏もそんなことを承知して、「現段階」ではと強調して、プーチン氏の言葉がまだ「はったり」だと判断したのだろう。
(その3につづく。全5回)
●この記事は月刊雑誌「正論」2022年5月号の古森義久氏の論文「プーチンの『核宣言』と米欧のジレンマ」の転載です。
トップ写真)露モスクワで開かれたクリミア併合の記念式典で支持者に向けて演説をするプーチン大統領(2022年3月18日)
出典)Photo by Contributer/Getty Images
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