ロシアが突きつける核の脅威 最終回 ウクライナの核放棄が侵略を招いた
Japan In-depth / 2022年4月20日 11時0分
さてプーチン大統領の今回の言明に対するアメリカでの反応に報告を戻そう。
この言明が単なる脅しなのか、それとも実行がありうるのか。その点をめぐる議論が軍事、戦略の専門家たちの間で熱っぽく始まったのだ。そのうちの代表的な実例を以下に伝えよう。
アメリカの主要外交問題専門誌「フォーリン・ポリシー」が3月11日に掲載した専門家2人の緊急対談である。登場は欧州問題研究の大手機関「大西洋評議会」のマシュー・クローニグ副所長とエマ・アシュフォード上級研究員だった。ともにアメリカの政府や大学で欧州やロシア、米欧関係などを専門としてきた人物である。
この対談は「プーチンは核兵器を使うか?」と題されていた。まさに関心対象の核心だった。
以下は2人の意見の交換の一部である。
クローニグ氏 「今回のウクライナをめぐる動向で当然ながら最も恐怖を感じるのはロシアと米欧側との核戦争の危機の可能性だ。東西冷戦の終了後、初めてロシアの核戦力が臨戦状態におかれたのだ」
アシュフォード氏 「プーチン大統領とラブロフ外相の両方から『もし欧米側がウクライナに直接の軍事介入をすれば、ロシアとの核戦争の覚悟をせねばならない』という警告が発せられたわけだ。ロシアは核兵器保有国なのだ、という改めての警告だといえる」
▲写真 プーチン大統領とラブロフ外相(2018年) 出典:Photo by Mikhail Svetlov/Getty Images
クローニグ 「ロシアはいまこそ『非エスカレートのためのエスカレーション』戦略を実行する構えをみせたわけだ。いざとなれば核兵器を使うぞ、と脅して、米欧側が引き下がれば、ロシアは目標達成となる。いまの段階ではアメリカとNATOを後退させるための脅しに過ぎないといえるが、ウクライナでの戦闘が長引くと、ロシアの戦術核兵器の使用という危険も現実になりかねないと思う」
アシュフォード 「私もその危険性は現実的だとは思う。しかしウクライナはNATOのメンバーではない。アメリカの核の傘には入っていない。だからアメリカは非同盟国のために核戦争になりかねない紛争に軍事介入はすべきではないと思う。しかしアメリカとしてロシアのウクライナの完全軍事制圧を防ぐ支援の方法はまだ多数、あるはずだ」
クローニグ 「しかしどうあっても米欧としてはロシアのウクライナ完全占領だけは許容できない。かといって核戦争はできない。米欧はかつてないジレンマに陥ったわけだ」
以上の対話のごく一部分を一読しただけでもプーチン大統領の今回の核宣言がアメリカや西欧に投げた重大な暗雲の深刻さがわかるだろう。
核兵器がもたらすこうした現実の危機は日本流の「核兵器を全世界から全廃せよ」と一方的に叫ぶだけの対応ではなんの解決策をも生まないことが改めて私たち日本国民の目前で立証されたともいえよう。
(終わり。その1、その2、その3。全4回)
**この記事は月刊雑誌「正論」2022年5月号の古森義久氏の論文「プーチンの『核宣言』と米欧のジレンマ」の転載です。
トップ写真:ハルキウでは、ウクライナ東部におけるロシアの新たな攻撃に対する備えが行われている。(2022年4月16日 ウクライナ・ハルキウ) 出典:Photo by Chris McGrath/Getty Images
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