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陰謀説の危険 その2 反ユダヤ主義の原典

Japan In-depth / 2022年5月15日 13時32分


写真)アルフレッド・ローゼンバーグ(1893-1946)1933年


出典)Photo by © Hulton-Deutsch Collection/CORBIS/Corbis via Getty Images


ヒトラーは「議定書」を初期の政治演説で引用し、その後もユダヤ人と共産主義者が世界支配の陰謀を画策している、という主張を発信し続けた。


共産主義が世界支配を目指すという主張にはソ連共産党の世界同時革命論などをみれば、ある程度の根拠があったともいえようが、ユダヤ民族が世界を支配するという認識はまさに「議定書」に書かれた虚構だった。だがナチスは1920年代から1930年代にかけて「議定書」のウソを内外へのプロパガンダ主張の中核にすえていった。


ナチスは1919年から1939年にかけて、少なくとも23版の「議定書」を出版した。1933年に政権を握ってからは、「議定書」の内容を学校教育での生徒の洗脳教材にも使ったという。その究極の結果がドイツの国家としての反ユダヤ政策となり、合計600万人ともされるユダヤ人の抹殺、つまりホロコーストをも生んだのだから、「議定書」の陰謀説は人類史上、稀な惨劇、悲劇を引き起こしたことになる。陰謀説、まさに恐ろし、である。


この文書の起源については諸説があるが、ロシア、フランス、ドイツなどでの政治や宗教の文書、小説、論文など多数からの合成とみられている。


しかし「議定書」の内容が虚偽であることは1920年代からまずイギリスで裏づけられていった。同書が描いた「シオン賢者」が実在しないことが証明され、さらにその「会議」や「議定書」も捏造の産物だった。だがそれでも多くの国で事実のようにして広まったのである。


アメリカの一部でもユダヤ攻撃にこの「議定書」を利用する陰謀説活動は第二次大戦後も絶えず、1964年にはアメリカ議会が取り上げて、改めて「議定書」が偽造された産物だと宣言した。


アメリカ国務省の2004年版の「世界の反ユダヤ主義に関する報告書」でも「議定書」は偽造品であり、その目的はユダヤ人とイスラエルに対する憎悪を駆り立てることだと公式に断じていた。


ロシアでも1993年には「議定書」を出版して反ユダヤ宣伝に使った過激派団体が検挙され、有罪判決を受けた。


だがユダヤやイスラエルに反発の強い中東ではシリアなど複数の国家でこの「シモン賢者の議定書」を事実として学校の教科書に取り入れるという動きが最近まで報告されていた。しかし国際的にはこの文書が偽造であり、それを根拠に使ってのユダヤ批判はすべて事実に反する陰謀説だと判断されるようになった。この判断はいまでは国際的に完全に定着した。


(その3につづく。その1)


トップ写真)ドイツのナチス強制収容所への入り口。この場所は現在、アウシュビッツビルケナウ記念博物館の一部となっている。 2014年1月1日 ドイツ


出典)Photo by Richard Blanshard/Getty Images ⒸHulton Archive


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