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相馬野馬追から学ぶこと

Japan In-depth / 2022年7月26日 16時0分

このあたり、相馬藩は極めて外交が上手い。この伝統は現在も続いている。第33代当主・相馬和胤氏の母・雪香氏は尾崎行雄の娘だし、妻・雪子氏は麻生太郎氏の妹である。東日本大震災以降、雪香氏が設立したNGO難民を助ける会は、いち早く相馬市に入り、支援活動をしているし、麻生太郎氏も、妻の実家である相馬を懸命に支援した。


私が、相馬市とお付き合いすることになったのも、当時、政権幹部だった仙谷由人氏から「相馬に入って応援して欲しい」と立谷秀清・相馬市長を紹介されたのがきっかけだ。立谷氏は自民党系の市長。しかしながら、2009年の政権交代後は民主党の幹部である仙谷氏と信頼関係を構築していた。この地方は、兎に角、外部勢力と結ぶのが上手い。


ただ、他力だけで乱世は生き残れない。独自の軍事力が重要だ。軍事訓練の一環が野馬追である。


野馬追を生で見ると、その迫力に圧倒される。なにしろ、300騎以上の騎馬武者が一斉に行進するのだ。そんな光景は、もはや相馬以外では見ることができないだろう。


さらに、私が野馬追に惹かれるのは、武者たちが本気であることだ。行軍中は怒声が飛び交い、もし観衆が行進中の馬前を横切れば、どこまでも追いかけ、その非礼を咎める。


なぜ、彼らは、ここまで本気になるのか。それは、彼らが野馬追に命をかけているからだ。この地域の馬術のレベルは高い。バルセロナ・アトランタ五輪の馬術競技代表となった木幡良彦氏など、多くの日本代表クラスを育てている。それでも、甲冑競馬、神旗争奪戦(写真2)では怪我人が出る。祭場には南相馬市立総合病院の医師・看護師、および救急車が待機する。骨折や挫傷は毎年のようにおこり、過去には落馬し、脊髄損傷の重傷を負った人もいる。



(写真2)南相馬市雲雀ヶ原祭場地にて、神旗争奪戦で神旗を獲得した武者が、報告のため、総大将の元に駆け付ける場面(2022年7月)


なぜ、相馬の人々は、ここまでするのだろうか。それは伝統だからとしか言いようがない。この地域は、伊達氏と抗争するため、武を貴び、一致団結して生き延びてきた。その象徴が野馬追いだ。自分たちの世代で止めるわけにはいかないのだろう。関ヶ原の戦い、戊辰戦争、第二次世界大戦後に再開した際にも、同じように議論したはずだ。


最近なら東日本大震災だ。福島第一原発事故で汚染された地域の大部分は相馬藩領だった。相馬の人々は2011年にも規模を縮小しながら、野馬追を実施した。そして、コロナの流行で二年連続中止となったものの、今年は三年ぶりに再開することができた。


多くの苦難を乗り越えてきたコミュニティは強い。福島第一原発事故からも速やかに復興し、コロナ対策、特にワクチン接種では、全国をリードした。このような強靱な地域社会の存在こそ、我が国の宝である。相馬から学べることは多い。


トップ写真:相馬野馬追(2004年)


出典:Photo by Koichi Kamoshida/Getty Images


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