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争点なき沖縄県知事選の“怪”

Japan In-depth / 2022年9月6日 11時0分

下地氏は、さらに普天間の国際空港化と軍民共用を提案する。経済成長第一主義の彼らしいアイディアだが、返還を夢見る宜野湾市民は、受け入れまい。


<バラマキ政策の羅列と長期ビジョンの欠落>


その他、3候補のバラマキ型公約が並ぶ。しかし、誰も財源を明示しないので、実現を危ぶむ声がある。


深刻なのは、沖縄の長期ビジョンをめぐる議論が乏しいことだ。コロナ禍で露わになった「観光立県」のもろさや、非正規雇用を大量に生み出す土建・観光中心の産業構造をどう変革するのか。その道筋を提示する候補者はいない。


コロナ対応の不手際や観光業への支援不足など、玉城県政への不満がくすぶる。しかし、誰が知事になっても同じだ、と考える有権者も多い。


<玉城氏と佐喜真氏、両陣営の内部事情>


各候補の公約に潜む各陣営の事情は興味深い。


2018年、翁長前知事の急逝以降、「オール沖縄」から経済人、保守派が多数脱落して、陣営内で共産党など革新系の比重が増した。


この勢力をバックに再出馬した玉城氏は、第一声で、「基地のない島」を目ざすと語った。中国の強硬な外交姿勢を考えると、「現実離れ」の感覚に驚かされる。同時に、保守中道を自認してきた同氏が、今では革新勢力に依存する構図も透けて見えた。


玉城氏は、前回の選挙で翁長氏急逝への同情票を集めた。今回は、同情票はない。個人的人気の高さで、佐喜真氏と下地氏の合計票に大差をつけて勝利するかどうか。


一方、自民党本部や沖縄県連は、当初、佐喜真氏の参議院選出馬を想定していた。同氏は玉城氏には勝てないが、参議院選では当選できる、との見立てがあったからだ。ところが、佐喜真氏は知事選に固執し、陣営の目算が狂う。


保守県政奪還への熱気が冷めたところに、下地氏出馬の追い討ちがあり、佐喜真候補の当選は一層難しくなった。焦った同候補は、「普天間返還の前倒し」を懸命に訴えるが、いかんせん、無理筋の公約だ。


<下地氏出馬の背景とインパクト>


下地幹郎氏は、カジノ利権がらみのスキャンダルで、維新の会を除籍され、政治生命の危機に瀕した。そこで、その剛腕に期待する一部経済界の支持を得て、自民党への復党を目ざす。しかし、同党と長らく対立してきたうえ、公明党との関係が悪く、自公連携を重視する自民党県連は復党を拒否する。


下地氏の知事選出馬表明は、当初、自民党復党をもくろむ条件闘争にすぎず、土壇場で選挙から降りるとの推測もあった。だが、頼りの国場組の国場幸一会長や、大米建設会長の実兄下地米蔵氏まで、佐喜真氏支援の方針を打ち出し、同氏は孤立する。条件闘争の思惑は空振りとなり、引っ込みがつかなくなったとの見方がある。


保守系の同氏が、第一声を上げたのは、何と、基地反対派が集まる辺野古ゲート前だった。普天間の軍民共用も含めて、起死回生の花火を連発するが、反応は鈍い。


皮肉なことに、下地氏の賭けは、保守系の結束を生むという意外な効果をもたらしたようだ。これまでまとまりを欠いた保守陣営だが、今は、自公体制を維持する方向に向かう。


ただし、保守系の求心力を持続させるには、佐喜真氏が前回の8万票差を縮めることが条件だろう。しかし、状況は厳しい。公約の平凡さに、「下地の乱」と旧統一教会の問題も重なり、票を減らす可能性がある。陣営内にため息が漏れる。


下地氏の出馬は、今回の知事選の波乱要因ではあったが、結局、玉城候補が左団扇になっただけと、もっぱらの評判だ。さて、各候補の得票数はどうであろうか。


トップ写真:沖縄の魔除け「シーサー」(イメージ) 出典:Photo by Carl Court/Getty Images


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