1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

陰謀説の危険 最終回 「ネオコン」もユダヤ陰謀説の産物

Japan In-depth / 2022年10月28日 1時32分

しかし2003年ごろには当時のブッシュ政権がこのテロの責任の一端をイラクのフセイン政権にも帰して、攻撃を始めるにいたり、そのイラクとの対決に関しては早くから軍事力行使を主張したブッシュ政権のポール・ウォルフォウィッツ国防副長官やダグラス・ファイス同次官などユダヤ系高官がネオコンと呼ばれるようになった。だがユダヤ側の人たちはこの用語が本来の意味とは異なるレッテル言葉だと反論するのだった。


 私が傍聴した反中傷連盟の会議では、同連盟研究員のスチュアート・ショフマン氏が「グローバルな反ユダヤ主義との闘争」という演説のなかで「反戦派などから『ユダヤ系のネオコンがナイーブな大統領を動かしてイラクを攻撃させた』という主張が出たが、この場合のネオコンというのはシオニスト(大ユダヤ国家の建設を目指す野心的なユダヤ人)という意味に等しく、反ユダヤ主義の要因を含んでいる」と述べた。


 ショフマン氏はまた「反戦派に限らず、一般でもユダヤ系の人間が強いパワーを発揮していると思われる状況への不快感があり、その感覚がネオコンという陰謀を思わせるレッテル言葉を生む側面がある」と語り、ネオコンという用語への否定的反応を明確にした。


 反中傷連盟の全国事務局長でホロコースト生存者のエーブラハム・フォックスマン弁護士も「純粋で短絡した反ユダヤ主義」という題の論文をこの会議で発表し、「最近のアメリカではパット・ブキャナン(非ユダヤの保守派活動家)のような過激主義者だけでなく、反戦派やマスコミの一部までが、アメリカはフセイン政権の武装解除よりもユダヤの利益のためにイラク戦争を遂行したのだ、という虚構を流している」と述べた。


 フォックスマン弁護士はその「虚構」の内容として「ブッシュ政権のユダヤ系のタカ派の高官たちがイスラエルとユダヤ人の利益に資するために対イラク戦争を遂行したという主張」をあげ、その主張にはなんの根拠もないと断定した。そのうえで「その根拠のない偏見によりユダヤ系タカ派高官たちがネオコンと呼ばれているのだ」と指摘した。


フォックスマン弁護士はさらにサンディエゴ・ユニオン・トリビューン紙のコラムニストのジェームズ・ゴールズボロウ氏が「ブッシュの対イラク戦は平和や安全とは関係なく、イラクがイスラエルへの脅威であることだけを懸念する一にぎりのネオコンの思考の産物なのだ」と書いたことを指摘して、「典型的な反ユダヤ主義の虚構」と非難したのだった。


 こうしたユダヤ系の人たちの反応をみるだけでも、「ネオコン」というのは客観的で中立の言葉とは思えないというのが反中傷連盟の全米指導者会議を取材しての私の実感だった。つまりは「ネオコン」というのはユダヤ陰謀説の傘の中のチルドレンの一員とも呼べようか。


 さらに20年近くが過ぎた2022年の現在、そんなひも付きの「ネオコン」という言葉が、アメリカのウクライナ政策をめぐって日本で登場してきたことと現実の乖離はまた改めて論じたいが、この言葉の虚構性の指摘にはこんな長い歴史が存在するのである。


(終わり。その1,その2,その3,その4,その5,その6,その7,その8,その9。全10回)


トップ写真:国務省での会議の後、反中傷連盟のフォックスマン会長と握手をするパウエル元国務長官(2003.7.30)


出典:Photo by Alex Wong/Getty Images


この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください