経済至上主義の崩壊【2023年を占う!】国際情勢 最終回
Japan In-depth / 2022年12月20日 7時0分
この論文は「ウクライナ戦争は政治が経済を打ち破る、という現実を証明した」という考察だった。骨子は以下のようだった。
「ソ連の崩壊以後の30年ほど世界の多くの諸国は経済の成長や自由化を最重視する政策を進めてきた。経済を成功させ、他国との経済の絆を深めれば、国際関係も円滑に動くという経済至上の思考が基盤だった。だがウクライナ戦争は経済以外の政治要因こそが国際関係を動かすという現実をみせつけた。経済万能主義、経済最優先主義の非現実性を証してしまった」
このザカリア論文は私自身が年来、感じてきた日本の経済万能主義の空疎な部分を冷徹に指摘したように思えて、思わず強い賛意を覚えたわけだった。やはり人間集団や主権国家にとっては安全保障や統治理念という政治の要因があくまで「主」であり、経済は「従」ということなのだといえよう。
ザカリア氏はこれまで経済を至上と位置づけ、その基盤の安全保障はあまり努力をしなくても、当然そこに存在するとみなしてきたような国としてカナダ、ドイツ、日本をあげていた。日本を世界全体でも有数の経済万能主義の国として特記したわけだ。
しかしザカリア氏は日本をはじめとするそれら3国ともいまや防衛や軍事の重要性に目覚めたようだ、とも書いていた。確かにドイツの国防重視、軍事重視への唐突ともいえる動きはその「目覚め」を印象づけていた。日本の場合、この種の目覚めは中国に対してとくに向けられるべきである。なぜなら日本国内では政界から財界まで対中関係ではこの経済至上主義の傾向がまだまだ強いからだ。
だがこの経済至上主義は中国の経済恫喝外交によっても否定された。フィリピンやオーストラリアへの経済面での脅し、尖閣領海で中国漁船が日本の海上巡視船に体当たりした事件での経済面での威嚇など、中国にとって経済の絆は日本への強硬な対応への抑制には決してならず、むしろ絆を一気に刃へと逆転させて脅しの武器にするのである。
この第7の経済至上主義の崩壊は日本にとって最も痛いところを突かれる国際変動かもしれない。なぜなら戦後の日本での官民の最も人気のあるパラダイム(規範)はこの経済至上主義だったようにみえるからだ。
政治も軍事も外交も、対立がある国が相手でも、とにかく経済面での交流や関与を強めれば、他の課題も自然とうまくいく、という経済最重視の思考は日本では長年、国内多数派の支持を得てきたといえよう。対外的にその日本を「エコノミック・アニマル」などと蔑視した向きもあったとはいえ、だった。
さて以上、7項目に区分した2023年の世界の変動要因はわが日本にとってみな深刻な負の矛先を突きつけてくるといえる。それらの激変が戦後の日本の国家のあり方そのものを揺さぶり、チャレンジし、否定さえしかねないようなのだ。だから7つの変動が合わされば日本にとって確実に重大な国難となる、とさえいえるのである。
こうした多様な国際変動を個別に探究して、わが日本にとっての意味を考察してくると、どうしても日本にとっての戦後最大の国難と呼ぶべき重大な諸課題が明確な姿をみせるのである。(終わり)
これまでの連載はこちら ①、②、③、④、⑤、⑥
トップ写真:イメージ 出典:theasis/GettyImages
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