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加賀乙彦氏追悼 東大医学部の劣化を憂う

Japan In-depth / 2023年2月18日 23時26分

私が注目したのは、「小木」という姓だ。この姓は、現在の石川県である加賀藩に多かった。江戸時代には大藩であった加賀藩は、幕末で目立った働きはなく、新政府から冷遇される。同藩からは大久保利通を暗殺した島田一郎らが出ている。官途での出世が期待できない小木一族は軍に職を求めたのだろう。このあたり、司馬遼太郎の名作『坂之上の雲』の主人公である秋山兄弟と似ている。彼らの故郷の松山藩は、新政府から朝敵とされ、明治以降、冷遇された。





加賀氏が『永遠の都』を記した背景には、明治維新から第二次世界大戦に至るまで、自らの力ではどうすることも出来ない一族の運命を実感したのだろう。さらに、戦後、精神科医として東京拘置所などで勤務し、人は、そのような環境の中、どう生きるべきか考えたはずだ。こうやって、日本を代表する知性が涵養された。





実は、東京大学医学部からは、加賀氏以外にも多くの作家・思想家が出ている。古くは森鴎外(明治14年卒、軍医)、加藤周一(大正7年卒、内科)、安部公房(昭和23年卒、医師免許は取得せず)、養老孟司(昭和37年卒、解剖学)らだ。





加賀氏に限らず、この中にエリートとして、順風満帆な人生を歩んだ人はいない。例えば、安部公房は満州で幼少期を過ごし、両親は北海道開拓移民だ。成長の過程で社会の不合理を考えざるを得なかった。





近年、東大医学部から、このような知性は出ていない。作家として有名な現役医師は、和田秀樹氏(昭和60年卒、精神科)くらいだろうか。昨年は『80才の壁』や『70才が老化の分かれ道』を出版し、日本一のベストセラー作家となった。和田氏らしく、幅広い読者層を狙った分かりやすい本だが、この著作から思考の深みは感じられない。そもそも、和田氏は、そのようなことを狙っていないだろうし、考えてもいないだろう。





それは、自戒も含めて言うが、甘やかされて育ったからだ。和田氏は、1960年に大阪市の会社員の家庭に生まれ、灘中・灘高から東大理科3類に進学したエリートだ。加賀氏ら先達とは、育った時代も環境も全く違う。





私は、東大医学部出身者は急速に劣化していると感じている。総合情報誌『選択』は、今年の一月号の「日本のサンクチュアリ」のコーナーで『鉄門倶楽部 腐乱する医療界の「総本山」』という記事を掲載し、カネとポストにすり寄る実態を紹介した。





登場するのは、私も面識がある先輩医師たちだが、彼らの大部分には罪の意識はない。優秀な若者が閉鎖的な空間に留め置かれ、周囲からエリートと持て囃されるとこうなるのだろう。かつての陸軍参謀本部の若手将校と酷似する。





東大医学部の劣化は、日本のエリートの現状を象徴している。どうすればいいのか。若いうちに苦労することだ。小鷹医師をはじめ、先達は、どうしようもない理不尽を経験した。そして、考えた。東日本大震災後の福島でも、コロナ禍の生活保護世帯でもいい。成長したければ、問題意識がある若いうちに現場を経験し、自分の頭で考えねばならない。









▲写真 南相馬市で被災者とともに体操する小鷹医師(中央)2012年8月(筆者提供)





トップ画像:東京大学医学部付属病院(2003年1月18日)出典:Photo by Koichi Kamoshida/Getty Images




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