東大コロナ留年ーこれまでの経緯のまとめー
Japan In-depth / 2023年2月21日 11時0分
昨年9月の東京地裁での一審判決では、降年は単位不認定の直接的な効果であって、単位を取得できなかったという結果は、司法審査の対象にはならないと判断された。東京地裁の岡田幸人裁判長は「進学選択不可処分」などは「行政処分」に当たらないため、訴訟の要件を満たさないとして訴えを却下する判決を出した。杉浦さんはいわゆる、“門前払い”のような扱いを受けることになった。
しかしながら、杉浦さん側は控訴し、5ヶ月ほど経った今年1月26日にようやく、高裁の判断で、杉浦さんの訴えを却下した東京地裁での一審判決を破棄し、審理を地裁に差し戻すことが決定された。東京高裁の渡部勇次裁判長は、「現時点で訴えが不適法と断ずることはできない」と判決で述べている。
以上がここまでの簡単な経緯だ。私はこれまで何回かに渡って、学生と対話の場を持とうとしない東大の在り方に疑問を呈してきたが、今回の決定で、ようやくまともな審理がなされるだろう(と期待している)。とはいえ、その場が大学の中ではなく法廷というのは、客観的に見て、非常に悲しいことだ。
大学の学びの主体は学生であるにも関わらず、彼らの声が大学に届いていないという状況が長年放置されており、その延長上にこの問題が起こっているのだということを、今一度、多くの人々に認識してほしい。
杉浦さんは「抗議をしたら制裁を受けることがまかり通ってはいけない」と、今年1月30日の会見で述べているが、まったくもってその通りである。“成績”という、学生側からしてみればブラックボックスとも言える情報を大学側に握られている以上、反対の声を上げるには多大な勇気が必要だ。その声を、一人の東大生の、自分には無関係な問題だと、他人事として枯らしてはならない。
なぜなら、東大コロナ留年問題は、コロナ関連で生じた、今後議論すべきだが見過ごされてしまっている多くの問題の氷山の一角に過ぎないからだ。日本のコロナ対策の迷走は、多くの犠牲、例えば、修学旅行や運動会などの経験の損失であったり、人々の外出自粛による飲食店の閉店や、孤立に伴う鬱病であったりを、現実問題として引き起こしている。
日本は、コロナ感染による致死率に関しては、OECD内でこれまで最優秀の地位を誇ってきたが、これは、官僚や専門家、権威のある機関が講じた対策の成功だけを意味しているというわけでは断じてない。声の届くことのない、国民たちのさまざまな“我慢”の上に、コロナ対策が成り立っているということを決して忘れてはならない。
杉浦さんの問題に向き合うことは、コロナ対策と機会保証の問題を問い直す第一歩であると、私は考える。十分な審理と議論の上に、この問題の収束があることを望む。
【金田侑大 略歴】
北海道大学医学部医学科の歩くグローバル。2021年9月から2022年7月までイギリスのエディンバラ大学に留学し、医療政策・国際保健を学んだ。座右の銘は“いちゃりばちょーでー”。
(本記事は、MRIC by医療ガバナンス学会「Vol.23027 東大コロナ留年-これまでの経緯のまとめ」2023年2月13日の転載です)
トップ写真:杉浦蒼大氏 提供:医療ガバナンス研究所理事長、上昌広氏
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