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「セメント王」浅野総一郎物語⑮ 日清戦争で船を日本軍に拠出

Japan In-depth / 2023年8月5日 17時0分

「セメント王」浅野総一郎物語⑮ 日清戦争で船を日本軍に拠出




出町譲(高岡市議会議員・作家)





【まとめ】





・明治26年、浅野総一郎ら日本郵船に対し「日本海運業同盟会」設立。





・日清戦争が始まり、陸軍次官児玉源太郎が同盟会に船の徴集を依頼。





・総一郎は、「国民」の当然の義務として船を差し出した。





 





“巨人”日本郵船に対する不満は、海運業者らの間で高まりました。大きなうねりとなったのは、北陸からです。富山の馬場道久や、石川の広海仁三郎ら北前船の海運業者が、一致団結しようと動いたのです。総一郎も合流し、明治26年に「日本海運業同盟会」という組織を作りました。





地方の海運業者らを一堂に集め、日本郵船に対抗する一大勢力となったのです。総一郎は委員長となりまました。翌27年には、所有する船の総トン数は、海運業同盟会が8万トン。10万トンの日本郵船に匹敵する勢力となったのです。寄港地の獲得競争も激しさを増しました。





日本郵船と海運業同盟会。二大勢力、がっぷり四つで戦う中、時代は大きく動いたのです。明治27年8月に日清戦争が始まり、両者の戦いもいったん水入りとなったのです。





蒸し暑い夏の日。日本海運業同盟会は陸軍省から呼び出しを受け、総一郎は委員長の立場で出向きました。船が御用船として徴収されるかもしれないと覚悟していました。





総一郎は陸軍の最高幹部と打ち合わせに臨んだのです。陸軍の大応接室には、陸軍次官の児玉源太郎が机に腰掛けていた。





児玉は大日本帝国陸軍のエースでその名前は轟いていました。児玉は日清戦争の戦況などを説明した上で、海運業同盟会の船を徴集したいと述べたのです。





「今度の戦争は、日本の命運がかかる大事な戦争だ。浅野君、商売っ気を離れて、お国のために、船を差し出してくれ。日本郵船に対しては船をトン当たり4円で借りようと思っている。政府が毎年、補助金を出しているからだ。君たちたちは、補助金を出していないので、少し上乗せするが、トン5円でなんとか借りられないだろうか」。





児玉は険しい表情をしながら、有無を言わせない雰囲気だった。予想通りの展開です。





ただ、海運業同盟会の船は、自分の所有ではありません。寄せ集め所帯の委員長として交渉しているだけです。他の船主の意向も聞く必要があるので、児玉に対し、慎重な言葉づかいで返答しました。





「御用船については了解しました。ただ、値段については、独断で判断できません。さっそく、他の船主たちを陸軍省に参集させますので、児玉さんのほうから、値段については説明していただけませんか」。





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