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馬券を当てるのは、人の心を当てるよりむずかしい 文人シリーズ第1回「漱石と競馬」

Japan In-depth / 2024年2月15日 17時0分

6月5日の記述「Derby Day」から、この日がイギリス最大の競馬の祭典「エプソム・ダービー」が開催された日であったことがわかる。





とすると、その前の5月27日の記述はたぶん、ダービーの前に行われるのが通例であった最強女王を決める牝馬の祭典「オークス」の日の喧騒ではなかったか。





漱石の下宿は、ダービーの行われるエプソム競馬場に通じるエプソム・ロード沿いにあったのだ。これも、競馬好きの筆者にとっては、なんだか嬉しい発見であった。





しかしこの短い文からは、そのダービーの日、漱石がエプソム競馬場に駆けつけたかどうかはわからない。文面からは両日とも、賑わうエプソム街道を下宿の窓から眺めていただけのようでもある。う~ん、口惜しいが、これ以上は調べようがない。





だが漱石が、ロンドンの図書館でサラブレッドの起源や競馬の歴史を調べていたという事実も確認されている。漱石が鬱々と楽しまぬロンドン暮らしの中で、競馬にただならぬ興味を抱いたのは確かなようだ。





漱石が、実は、ひそかに競馬に入れあげていたと想像するのは愉しい。そしていく度となく馬券でやられたからこそ、美禰子のこの有名なセリフが生まれたのではなかったのか、と想像するのは、もっと痛快だ。





ロンドン留学中、神経衰弱に悩まされた漱石の心の支えとなったのが、実は競馬だった――そう考えたくなるのである。





それにしても、と筆者は思う。“馬の心に索引が附いていれば”、もっと馬券が当たるのに。





トップ写真:1900年頃: ダービーデーにエプソムに集まった大勢の観衆 出典:AL Henderson/Getty Images




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