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次期装輪装甲車、AMV採用を検証するその1駿馬を駄馬に落とす陸自のAMV採用

Japan In-depth / 2024年3月6日 18時0分

次期装輪装甲車、AMV採用を検証するその1駿馬を駄馬に落とす陸自のAMV採用


清谷信一(防衛ジャーナリスト)


 


【まとめ】


・装備庁・陸幕は、AMVのネットワーク化を軽視。現代の軍隊では致命的な欠陥。


・高性能AMVを「昭和の装甲車」と運用。他の部隊とリアルタイムでリンクできず。


・能力は他国のAMVの数分の一以下か。とても戦えるレベルにあらず。


 防衛省は2021年、陸上自衛隊の96式装甲車の後継としてフィンランドのパトリア社のAMV(Armoured Modular Vehicle)XPを選定した。AMVシリーズは多くの国で採用されており、アフガニスタンなどで実戦を経験してその性能が証明されている。AMV XP(以下、AMV)はその最新型である。車両のサイズは全長8.4メートル、幅2.8メートル、高さ2.4メートル。最大戦闘重量は32トンで、96式の約二倍で最大積載量は15,000kgに達する。


エンジンは原型のAMVの360kwから450kwと出力が大幅に向上し、モジュラー化された装甲は、前面装甲は30mm徹甲弾を防ぎ、全周的に14.5ミリ弾に耐えられる。また高い耐地雷生存性を有している。ドイツKMW社のボクサー、フランス・ネクセター社のVBCI、スイスのモワーグ社(米ジェネラル・ダイナミクス社傘下)のピラーニャ5などと並ぶ世界最高クラスの8輪装甲車である。乗用車でいえばベンツやレクサスクラスである。


だが、防衛省防衛装備庁と陸上幕僚監部はこの「駿馬」を「駄馬」にしそうだ。それはネットワーク化の軽視によるものだ。AMVは基本型のAPC(装甲兵員輸送車)以外、指揮通信型、兵站支援型、工兵支援型、装甲野戦救急車、NBC型などの派生形が作られ、先に採用された共通戦術装輪車と同様にいわゆるファミリー化される。だが指揮通信型以外はシステム統合とネットワーク化されない。


現在の装甲車はGPSを含むナビゲーション・システム、戦場の状況を把握できるBMS(バトル・マネジメント・システム)、車外の状況を把握する状況把握システム、火器、通信機、各種センサーなどのコンポーネントがシステムとして統合化されている。そして部隊や他の部隊とネットワークで結合されて情報を共有し、有機的に戦うことができる。


だが、筆者の取材する限り、陸自のAMVに搭載されるのは音声通信とメール、静止画像しか送れない「広域多目的無線機」だけだ。しかもその「広域多目的無線機」は現代の無線機としてはアナログ、デジタルともに変調方式が大変遅く、伝送速度はVHFで約1kbpsでしかない。他国のようにデータや動画を送ることはできない。対して、軍用HFデジタル通信の世界標準は128kbpsである。現在、米軍が使用しているUHF/VHF無線機は5G通信で、10Gbpsである。これはネットワーク化が進む現代の軍隊では致命的な欠陥である。しかも総務省が軍用無線に向かない周波数帯を割り当てているので通じにくい。この周波数帯の問題は東日本大震災でも問題になった。これは無線機だけではなくドローンや無人車両などの運用でも大変問題があるのだが、防衛省も陸幕も総務省と調整する予定はないようだ。


AMVユーザーのフィンランド、スウェーデン、UAE、ポーランド、南アフリカ、スロベニア、スロバキアなどのユーザー国でこのような時代遅れの仕様を採用した国は存在しない。最新型の装甲車にネットワーク化を施さないのは、パソコンに最新型のプロセッサーを搭載しておいて、通信機能を付加せずに画面を見て、相手先と電話で話しながら仕事をするようなものだ。


陸自では共通戦術装輪車は16式戦闘車などとともに、より高い脅威に対処する即応機動連隊に配備され、次期装輪装甲車は通常の連隊に配備するとしている。つまり高性能な共通戦術装輪車と安価な次期装輪装甲車を採用してコストの低減を図るというものであった。



図)フランス陸軍大規模近代化計画「スコーピオン」概念図。


だが、普通の国では必要不可欠なネットワークを犠牲にコストダウンを行うことはない。例えば、フランス軍は装甲車輌の包括的な調達計画であるスコーピオン(SCORPION:Synergie du contact renforcée par la polyvalence et l’infovalorisation)が存在する。これは仏陸軍参謀本部とDGA(防衛装備庁)が2000年から着手して2億ユーロ(約300億円)の費用をかけて、既存の装甲車輌の役割をどのような後継車輌に割り振るのか、またFELIN先進歩兵システムとVBCI歩兵戦闘車のネットワークシステムとのシステムの統合などが検証されてきた。ほとんどの装甲車両や自走砲などがカバーされており、総予算は60億ユーロ(約7800億円)が見込まれている。(参考記事:<東洋経済>防衛省の「次期装輪装甲車」決定に見た調達の欠陥 体系的に進められず問題意識なき前例踏襲が続く)


つまり、せっかく高性能のAMVを採用して「昭和の装甲車」と運用することになる。


現在の装甲車両はエレクトロニクスの塊であり電子関連のコンポーネントやソフトウェアの価格は単価の数割を占めるのが普通だ。この「普通」を陸幕も装備庁も理解していない。しかも皮肉なことに、より「高性能」である共通戦術装甲車よりも、AMVの方が装甲車としてより高性能である。AMVに試乗した陸自の某将官は「これが装甲車か!今我々が使っているのは…」と言葉を漏らしたそうである。


唯一の例外が先述のようにAMVの指揮通信型で、10式戦車、16式機動戦闘車、共通戦術装輪車に採用されている10TKNW(10式戦車ネットワーク)を搭載することになっている。まるで第二次世界大戦のソ連軍戦車が隊長車だけに無線機を搭載していたのと同じだ。


10TKNWは10式向けに三菱重工が開発したもので、基本設計は四半世紀前の骨董品である。10TKNWは小隊・中隊単位内の10式戦車同士が相互に情報を共有・伝達するが、他の部隊とはリアルタイムでリンクできない。


インターフェイスも使い勝手がよくないと評判が悪い。共通戦術装輪車の開発は5年ほど遅延したが、その理由はこの10TKNWにあるとされている。歩兵戦闘車型には主兵装が30ミリ機関砲搭載の砲塔、自走迫撃砲型はタレス社の迫撃砲システムが、偵察型にはエルビット社の偵察システムが搭載されているが、これらとのシステム統合が上手くいかなかったのが原因のようだ。


率直に申し上げて、三菱重工に装甲車両の電子システムのインテグレーション能力はない。外部に丸投げすべきだった。外国では装甲車メーカーがシステムハウスに丸投げすることは多い。例えばフランスのネクセター社がタレス社に、トルコのオトカ社がアセルサン社をサブコントラクターにしてシステムを担当している。


AMVの武装にも問題がある。APC型は一部コングスバーグ社のRWS(リモート・ウェポン・ステーション)を採用する。RWSとは機銃などの火器と、赤外線暗視装置、レーザー測距儀、安定化装置を組み合わせたシステムで、射手は車内にいながら正確な射撃ができる。いまやどこの軍隊も標準装備といっていいものだが、陸自はただの一台も採用していない。先進国でRWSを採用していない唯一の国である。RWSはトルコや中国でも当たり前のように採用されている。陸自はアフリカあたりの貧国並といっていい。



写真)技本が開発したRWS。これは陸自では採用されず、AMVに搭載されるのはコングスバーグ社のプロテクターだと見られている。 筆者提供)


だが、RWSが搭載されるAMVは中央即応連隊などごく一部とされている。後は12.7ミリ機銃か40ミリグレネードランチャーが装備される予定だ。RWSは単に射撃するだけではなく、夜間含めて高い偵察、監視が可能となる。また狙撃手に対する有効な反撃手段でもある。更に近年増大しているドローンに対する有用な迎撃手段でもある。RWSを搭載しない場合、索敵能力、攻撃能力、対ドローン迎撃能力が低いままである。ネットワーク化されていれば、RWSで得た情報を共有化することもできるが、ネットワークされていなければそれもできない。


装備庁も陸幕も現代の戦闘を理解しておらず、組織内の「大人の事情」にとらわれているので、せっかく世界最高レベルの装甲車を導入するのに、本来必要な機能を付加しない。せっかく優秀な装甲車であるAMVを採用しても、その能力は他国のAMVの数分の一以下になるのではないか。少なくとも現代の陸戦を戦えるレベルにはならない。


(その2につづく)


トップ写真:スロバキア軍に採用されているパトリア社製AMV(2023年2月16日 スロバキア・レスト) 出典:Photo by Sean Gallup/Getty Images


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