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「晴れて競馬のできる平和を祝す」文人シリーズ第2回「流浪(さすらい)のギャンブラー 山口瞳」

Japan In-depth / 2024年3月9日 17時53分

“稀代の悪書”とけなしたいのは、何を隠そう、私が人生を踏み外すもととなったのが、この『草競馬流浪記』だからだ。元は『小説新潮』に連載されていた競馬随想である。このエッセイを読んだ翌日、私は雨にもかかわらず、それまで一度も利用したことのなかった地下鉄東西線に乗って中山競馬場へすっ飛んでいった。以来、たまたま知人に馬主がいたこともあって、土日はほぼ競馬場に通い、身分不相応にも馬主席に腰を降ろし、せっせとはずれ馬券を買い続けたのである。





残念ながら、山口先生(ここから先生と呼ぶ)にはお会いできなかったが、同じく直木賞作家で馬主でもある浅田次郎氏には毎土曜日、穴場(発券窓口)で接近遭遇した。もちろん浅田さんはそんなことは知らない。夏開催の函館競馬では定宿のホテルの大浴場でご一緒したこともある。これは、ひょっとして、裸の付き合いとは言えまいか?もちろん浅田氏は知らない。





だからというわけではないが、山口先生と浅田次郎さん、おふたりの著作と競馬エッセイはほとんど読んでいる。





『草競馬流浪記』は、山口先生による全国27カ所の地方競馬場踏破を綴った、世界に類書を見ない競馬紀行文の傑作である。私にとっては生涯のバイブルとなった。何度読んでも飽きるということがない。





その裏表紙には、革の鳥打帽をかぶって黒縁のロイド眼鏡をかけた山口師匠(一階級昇格)の姿と一緒に、次の迷句が麗麗と掲げてある。





わが公営競馬に来たれる日

財布は烈風の中に尽きたり

馬は闇に吠え叫び

馬券はスタンドに散りたり

まだ払い戻しの窓口は見えずや





師匠は同書の中で「流浪のギャンブラー」を自称している。私も、この本のおかげで、“平和”な日本を未だ流浪ってばかりだ。





-脚註-





*公益財団法人馬事文化財団「学芸員便り2014年第1回 昭和初期に賑わいを見せた2つの戸塚競馬場」より。 









▲写真 「草競馬流浪記」山口瞳著、新潮社 出典:amazon





トップ写真:イメージ(本文とは関係ありません)出典:Romilly Lockyer/GettyImages




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