先代への否定で揺らぐ金正恩世襲の「正当性」
Japan In-depth / 2024年3月23日 17時0分
・労働新聞を始めとしたメディアに異常兆候
労働新聞を見ても、1月17日からは「平和統一否定」「同一民族否定」「一つの国否定」の金正恩委員長の言及は一言も掲載されていない。代わりに労働新聞は「党の地方発展20✕10政策を強力に推進することについて」や、金委員長の「軍需工場現地視察」「軍事訓練指導」のような記事で紙面を飾っている。
過去には、金正恩委員長が新年辞または最高人民会議などで演説をすれば、労働新聞がその方針遂行のための後続の記事を次々と掲載するのはもちろん、平壌で大々的群衆大会を開くのが常だったが、今回はそのような気配は見られない。また朝鮮中央-TVにも後続の関連報道はない。
そうした中で2月8日の人民軍創建日(「建軍節」)演説が注目されていたが、金正恩の発言に若干の変化が見られた。この日の演説で、金委員長は「韓国傀儡族属たちを私たちの最も危険な第一の敵対国家、不変の主敵に規定したのは千万当然な措置」と語ったが、先の党中央委員会総会と最高人民会議演説で言及した「反統一、反民族」には言及しなかった。
今回の金正恩による「反統一、反民族演説事件」で、はからずも不安定な北朝鮮の意思決定プロセスの一端が明らかとなった。金正恩委員長がますます独断的に意思決定をしているということだ。 金委員長が演説に先立って党・政・軍の多くの幹部たちと事前議論をしたとすれば、このような問題は生じなかったはずだ。
・統一否定を国民に説明もせず「戦争ゲーム」に熱中する金正恩
3月4日から3月14日までの韓米合同軍事演習に神経をとがらせていた金正恩であるが、強化された演習を恐れてなのか、合同軍事演習期間中に弾道ミサイルを発射することはなかった。
金正恩は、6、7日と続けて朝鮮人民軍の部隊を視察し、旧式の長距離砲で訓練を誇示し、「戦争準備の完成にあたって、実戦訓練を絶えず強化しなければならない」と激を飛ばし、3月13日には自ら新型戦車を運転するなどのパフォーマンスを見せて、子どものようにはしゃいだが、ミサイル発射をしなかった。
ところが14日に米韓の合同軍事演習が終わった途端、15日には各航空陸戦兵部隊の訓練を視察、3月18日午前には大型ロケット砲を発射するなど挑発を行い、続けて19日には、新たに開発を進めているとされる極超音速ミサイル用の固体燃料式エンジンの燃焼試験を視察するなど、米韓に対するデモンストレーションを強めた。
戦争状態を誇示することでのみ国の統治を進めている金正恩であるが、先代の政策を否定することでその世襲の「正当性」を自ら崩しつつある。
トップ写真:北朝鮮の金正恩総書記が映るテレビを見るソウル市民。北朝鮮、「第3段階飛行中の緊急爆破システムにエラーがあった」ことを理由に、偵察衛星の2度目の打ち上げ計画が失敗に終わったと発表(2023年8月24日 韓国・ソウル ソウル駅)出典:Chung Sung-Jun/Getty Images
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