赤狩りと恐怖の均衡について(上)「核のない世界」を諦めない その3
Japan In-depth / 2024年4月18日 20時41分
旗振り役はジョセフ・マッカーシー上院議員で、彼が委員長を務めた上院政治活動調査小委員会と、下院非米活動調査委員会が実働部隊となった。このため、赤狩りは別名「マッカーシズム」と呼ばれている。
オッペンハイマー自身も、幾度も述べるようにやり玉に挙げられたのだが、直接的に問題視されたのは、共産党員との個別擬態的な関係性以上に、彼が水爆の開発に反対したことであった。
原爆よりも遙かに強力な水爆を米国が実用化したならば、ソ連邦も開発を急がざるを得なくなる。そうなればゴールの見えない核軍拡競争になる、という理論であったわけだが、マッカーシズム(=赤狩り)に同調した人々に言わせれば、
「ならば共産主義者が先に水爆を持ったらどうするのか」
という話で、案外オッペンハイマーの本音は、間接的にソ連邦の水爆開発を助けることになったのではないか、とさえ見られてしまった。
このように述べると、自業自得ではないか、といった声も聞こえてきそうだが、その解釈は読者一人一人にお任せするとして、ひとつだけ知っておいていただきたいのは、冷戦終結からソ連邦崩壊という歴史を経ても、未だに赤狩りが「アメリカン・デモクラシーの負の歴史」であるかのように語る向きが多いという事実である。
端的に言えば、共産主義の脅威を排除するという「錦の御旗」を掲げたマッカーシーらは、いささか増長し、いい加減極まる「共産主義者リスト」を作成したのを手始めに、スパイとして訴追された者には拷問まがいの自白強要が常態化したのである。
加えて、その矛先は政治家や公務員だけではなく、映画人や出版人にまで向けられた。
実際に、あのチャーリー・チャップリンをはじめ、幾多の著名人が米国に居場所を失う羽目になっている。『ローマの休日』(1953年公開)も、ハリウッドを追われた映画人たちがイタリアで制作・撮影した。
このあたりの事情は、以前にも本連載でも紹介させていただいた『赤狩り』(山本おさむ・著 小学館)を読まれるとよいだろう。
次回、もうひとつの論点である「恐怖の均衡」について見てみることとする。
(その1、その2)
トップ写真:ジョセフ・マッカーシー米上院議員 出典:Photoquest/Getty Images
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