北朝鮮の金正恩体制と意思決定システムに異変
Japan In-depth / 2024年4月28日 11時0分
このような危機の中で、金正恩の権威は日増しに低下していったが、いま何を思ってか祖父金日成の「太陽」の座を奪うことで権威の浮上を図ろうとしている。「太陽・金正恩将軍」というプラカードが登場し、労働新聞などは金正恩に対して「主体朝鮮の太陽」という表現を使い始めた。金正恩は今回の太陽節に錦繍山太陽宮殿への参拝もしなかった。4月17日に平壌で和盛地区第2段階1万世帯分の住宅竣工式を執り行い、その場で「親しいオボイ(親)」という金正恩を偶像化する新しい歌も発表した。これまで北朝鮮において「オボイ」は金日成主席を意味する言葉であり、金正恩の父金正日もあえて使わなかった。ところが金正恩は金日成の「太陽」と「オボイ」を同時に奪い取ったのだ。
だが、金正恩の権力基盤の根は金日成だ。自身の権威を高めようと金日成否定に踏み出したようだが、それは金正恩権力の正統性を否定する道だ。金正恩体制はいよいよ末期的症状を呈してきた。
2、北朝鮮の意思決定プロセスにも異変
金正恩体制が末期的症状を呈する中で、北朝鮮指導部の整合性の取れない意思決定が目立っている。その主要なものとしては、1)先代たちの平和統一路線と「一つの朝鮮」政策を放棄、2)娘を連れての軍事視察と娘呼称の過激化、3)唐突な地方経済発展20✕10政策などがある。
そして外交政策においても、これまでにない異変が起こっている。その典型的な事例が対日政策である。
朝鮮労働党中央委員会の金与正副部長は、今年の2月15日に、岸田首相が提案した「無条件の首脳会談」に対して談話を発表し、「拉致問題は解決済みとし、核とミサイルには口出ししないこと」の2条件を約束すれば、実現もありうるとの個人的見解を述べた。
3月25日にはこの条件を再度確認する談話を出したが、日本側が25日午後、内閣官房長官の記者会見で「拉致問題がすでに解決されたとの主張は全く受け入れられない」との立場を明白にすると、金与正は突然豹変し、26日に日朝会談を拒絶するとの談話を発表した。
そして「最近も岸田首相は、異なるルートを通じて可能な限り早いうちに朝鮮民主主義人民共和国国務委員長に直接会いたいという意向をわれわれに伝えてきた」などと、外交交渉の内幕を暴露するという「異常行動」を示した。金日成時代はもちろん金正日時代の北朝鮮ですらこうした異常な対応はなかった。
そればかりか、この談話に先立ち、北朝鮮は、26日に予定されていたワールドカップ2次予選日朝戦第2試合目となる平壌での試合を、突然中立地に変更する必要があるとAFCに通知し、国際サッカー連盟(FIFA)を混乱に落とし入れた。結局この試合は没収試合となったが、世界のサッカーフアンからも猛烈な糾弾を受けた。
北朝鮮の常識はずれの政策や拙速な意思決定は、先代を否定するに至った金正恩の「精神構造の変化」と関係しているように見える。
トップ写真:偵察衛星2度目の打ち上げ失敗に終わったことを報じるニュースに映る北朝鮮の金正恩総書記を見るソウル市民(2023年8月24日 韓国・ソウル)出典:Chung Sung-Jun/Getty Images
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