エクアドルはなぜウィーン条約違反の暴挙に出たのか メキシコ大使館突入事件の背景
Japan In-depth / 2024年5月2日 11時0分
もう一つ見逃せないのは、ノボア大統領が率いる現政権が徹底した麻薬組織撲滅を目指しているという事情だ。昨年10月の大統領選決選投票でノボア氏は麻薬追放と治安回復を最優先課題に訴えて当選した。今年初め、麻薬組織のボスが刑務所から脱獄したのをきっかけに国内各地で殺人、誘拐、爆弾事件が相次ぎ、ノボア大統領は全土に非常事態を宣言、麻薬組織とのし烈な闘いを展開中である。大統領としては「ウィーン条約に違反する強硬手段に訴えてでも、汚職の象徴的存在であるグラス氏を何としても捕らえたかった」(キトの有力紙ジャーナリスト)ことは想像に難くない。
◇ウィーン条約違反は過去にも-中南米
メキシコによるエクアドル断交が今後、どのような事態を引き起こすのか。メキシコはエクアドルが公式に謝罪するまで、その国連加盟資格を停止するよう求めている。グテーレス国連事務総長はエクアドルの国連資格をどうするかは加盟国次第だと述べている。エクアドルは国連では評判が芳しくない。現在安保理の非常任理事国として名を連ねているが、国連分担金が未納のため、国連総会での投票権がない。エクアドルは今回のウィーン条約違反で各国から非難を浴び、さらに評判を落とした形だが、それでも同国を国連から追放する動きは出ていない。
実は中南米では過去にも、ウィーン条約に違反し、外国公館の治外法権などの特権が無視されたケースがある。1976年、軍政下のウルグアイで治安部隊がモンテビデオのベネズエラ大使館に侵入し、政治亡命を求めていた医師を連行した。1980年にはグアテマラの治安部隊が農民グループに占拠されたスペイン大使館を攻撃する事件が発生している。いずれの事件でも関係二国間の外交関係を損なったものの、地域全体に影響が及ぶような事態にはならなかった。
今度のメキシコとエクアドルの紛争について、中南米情勢の専門家として知られるアンドレス・オッペンハイマー氏は米有力紙に寄稿し「コップの中の嵐」とし、やがて両国の関係は回復するだろうと予想している。
(了)
トップ写真:ラファエル・コレア元副大統領のメキシコ大使館における身柄拘束に関し、記者会見するエクアドルのガブリエラ・ゾンマーフェルト首相(2024年4月6日エクアドル・キト)出典:Franklin Jacome/Agencia Press South/Getty Images
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