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主要新聞の論壇時評のゆがみ

Japan In-depth / 2024年5月7日 14時27分

主要新聞の論壇時評のゆがみ


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)


「古森義久の内外透視」


【まとめ】


・朝日新聞の自社の左傾の社風に合った記事しか取り上げない論壇時評の偏向が一層、目立つ。


・産経新聞の「時評論壇」は多角的。


・同じ産経新聞の内部でも多様な意見があり、この多様性は歓迎されるべきだ。                                  


 読売新聞、朝日新聞、産経新聞など主要新聞には毎月、総合雑誌のその月の記事を紹介し、論評するページがある。「論壇誌思潮」、「時評論壇」など各新聞によりそのタイトルは異なる。だが内容はその月の雑誌、主に月刊雑誌の記事の内容を取り上げ、批評する、あるいは賛成する、というコラム欄である。


 この論壇時評のうち、とくに朝日新聞のそれは大きなゆがみがあることはこの連載コラムでもすでに報じた。(2023/11/16朝日新聞「論壇時評」の奇々怪々)このゆがみは半年後のいまも変わりはない。いやその傾斜はさらにひどくなったようだ。いまの日本の論壇で明確な存在を示すHANADA,WILL 両月刊雑誌は完全な無視である。


 読売新聞もこの両誌の無視は変わらない。産経新聞も長い年月、この両誌を取り上げることがほとんどなかった。だがいまになってその閉鎖された窓が開き、正面から両誌の記事を紹介し、論評するようになった。この点は開放や公正という視点からの進歩だといえる。そうなると、朝日新聞の自社の左傾の社風に合った記事しか取り上げない論壇時評の偏向が一層、目立ってくる。


 朝日新聞の最新の論壇時評をみよう。4月25日の朝刊の掲載である。この時評というのは簡単にいえば、論壇全般ではなく、左翼論壇に限っての紹介なのだ。昨年10月26日の朝日新聞のこの欄に珍しくHANADAと「正論」の名が出た。だがそれは主体の時評ではなく、主文の下に論壇委員と呼ばれる複数の筆者の一人が別個の小コラムの形で印象に残ったという論文をあげたにすぎなかった。主文を書いたのは東大社会科学研究所教授の政治学者とされる宇野重規氏だった。


 今回の4月の論壇時評も主役の筆者はその同じ宇野氏なのである。


 宇野氏は今回も左翼系の雑誌の論文だけを最優先して紹介していた。ちなみに宇野氏自身、学者かもしれないが、政治活動家としても知られている。しかもその政治スタンスは国民多数の民主的意思で進める日本の政府や国会の長年の政策にはほぼすべて反対という明確な左傾である。宇野氏は2015年にできた平和安保法制に反対し、その廃止を求める運動体「市民連合」の呼びかけ人、つまり活動主導者の一人である。自民党政権の打倒を一貫して呼びかけてきた活動家ともいえる。


 朝日新聞はこうした左翼的人物を自紙への寄稿に使うことが定番なのだ。この場合の「左翼」とは、自民党政権に一貫して反対し、日米同盟にも批判的、共産主義や社会主義の他の国家、あるいはその政治理念にはきわめて好意的だった軌跡を有する政治傾向を指す。


 だから宇野氏が論壇時評でまず優先してとりあげるのは左翼雑誌の「世界」の記事である。その他、「現代思想」という雑誌の論文をも多数、取り上げていた。この雑誌も中道派からは「左翼の牙城」とも呼ばれたことがあった。一般的な認知がいまやきわめて低い雑誌メディアだともいえよう。


 宇野氏はそのメディアから多数の記事を取り上げ、2024年春の日本の論壇の代表的な論文扱いをするのだ。もちろんそこにはHANADAやWILLへの言及はツユほどもない。この傾向は日本の論壇全体について論じるような観点からすれば、偏向、そしてゆがみであろう。


 読売新聞の「思潮 論壇誌」という時評はまだ客観的だといえよう。読売新聞の文化部記者が執筆者である。4月29日付朝刊の同紙に載ったこの論評は総合雑誌の重要とみなされる論文の紹介だが、その第一には月刊誌「潮」に載った中東紛争についての論文をあげていた。「潮」は周知のように創価学会系の出版社から刊行され、公明党との関係での政治党派性は否定できない。ただし朝日新聞が好む「世界」のような左翼メディアではない。


 読売新聞の論評は次に「三田評論」掲載の論文を紹介していた。「三田評論」は慶應義塾が発行する学内の機関誌に近い雑誌である。知名度は高いとはいえ、一般の総合雑誌ではない。同評論が三番目にあげたのが月刊誌VOICEの論文だった。PHP研究所が発行するこの雑誌は論壇誌だといえよう。だが読売のこの評論が大きなスペースを使って紹介した刊行物はこの3種だけだった。朝日新聞とは別の意味での偏りを感じさせられた。日本の雑誌では部数でも最上位にランクされるHANADA やWILLは眼中にないようなのだ。


 一方、産経新聞の4月25日付の「時評論壇」は多角的だった。まず第一にWILL掲載の論文を大きく取り上げ、詳細に論評していた。第二にはHANADAの論文のこれまた詳細な紹介と論評だった。この両誌の正面からの取り上げは産経新聞でも珍しい。そしてこの「時評」は三番目には「中央公論」、さらに「世界」、そして「正論」に載った論文をそれぞれ紹介して、評論を加えていた。各紙のなかでももっとも柔軟、かつ開放的と呼べるスタンスのようだった。


 ただしその産経の過去の「時評」には首をかしげさせられる記述もあった。昨年11月23日掲載の「時評」だった。そのなかに以下の記載があった。


 「どこまでを『論壇』とみなすか。(中略) いかに耳目を集めていようとも、特定の政治的党派に立って敵対者への攻撃を主眼とした言説を紹介することは躊躇(ちゅうちょ)せざるを得ない。そこには身内への党派的アピールと瞬間的注目のための激語しかなく、他者の論に触れて自らの考えを訂正する可能性が考慮されていないからだ」。


 以上の記述は前後の文脈から判断すると、WILLやHANADA への言及のようだった。「特定の政治的党派に立って敵対者への攻撃を主眼とした言説を紹介」はよくないから、取り上げない、という趣旨だ。だがこの姿勢こそまさに朝日新聞の論壇時評のあり方だといえよう。朝日新聞がこの雑誌の評論と称するページで「特定の政治的党派に立ち」、歴代自民党政権を「敵対者」とみなし、「攻撃を主眼とした言説を紹介」してきた実例は山ほどあるからだ。


 同じ産経新聞の内部でもこのあたりには多様な意見があるのかもしれない。だがこの多様性は歓迎されるべきだろう。朝日新聞のように左傾斜にこり固まった論調では論壇全体の時評からますますかけ離れ、左傾斜の狭い坂道を下り、やがては行き止まりにぶつかるのではないか。


トップ写真:「月刊Will」と「月刊Hanada」2024年6月号 出典:Japan In-depth編集部


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