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金正恩の「先代超え作戦」は成功するのか?(上)

Japan In-depth / 2024年5月28日 22時52分

北朝鮮では「人民第一主義」や「国家第一主義」が「金正恩の思想」と宣伝してきたが、こうしたものは「政治スローガン」であって「思想」なるものからかけ離れている。現在金正恩の「革命思想」なるものがどういった内容と体系を持つものか全く説明されていない。そればかりか先代たちの「思想」の重要な構成部分である「統一思想」を金正恩がなぜ否定したのかも全く説明されていない。





また、金日成・金正日超えの「革命歴史」の偽造も不可能だと思われる。金正恩には自身の出自を公開できない秘密が多すぎるからだ。





まずは、母親高ヨンヒ問題だ。金正恩執権後この問題を解決するために、母親の名前まで変えた記録映画を作り、一部その内容を幹部だけに公開したが、この録画は回収され今も封印されている。その後遺症があまりにも大きく、金正恩の正統性までも否定されかけたからだ。現在この内容を口外した者は、即、強制収容所行きとなっている。





また、金正恩には祖父金日成と写った写真が一枚もない。母親高ヨンヒが在日同胞出身で、金正日の愛人に過ぎなかったために、金正日と高ヨンヒとの間に生まれた子どもたちは、金日成に一切秘密にされた。金正恩が白頭の血統というが、彼が金日成に認知されたとの根拠は今もって出てきていない。





そればかりか、実の兄や義理の叔父をはじめとした家族親族や父の部下たちをあまりにも多く粛清・処刑した。金正恩執権後、父親金正日が重用した主要幹部はことごとく消された。そのために金正恩の権力構築過程を美化するにはあまりに障害が多い。北朝鮮エリートや住民の心の底には、金正恩の残虐性が深く刻み込まれている。





2、北朝鮮の「後継者原則」を否定した金正恩





北朝鮮では「後継者」の最も重要な資質として、先代首領(最高指導者)に対する限りない「忠実性」が挙げられている。この「忠実性」に対しては「真の忠実性とは何か。ひと言で言えば、内外の別なく心変わりを知らない絶対的で永遠な忠実性を言う」と説明され、「首領に対する忠実性は、変わりなく継承され、労働者階級の革命偉業遂行の全歴史的期間で高く発揮されねばならない」と結論付けている。





先代首領に対する限りない「忠実性」を示してこそ、金正恩は権力継承の正統性を示すことができ、先代首領の権威に乗っかり権力基盤を構築できる。しかし金正恩は、自身の権威を高めるために、先代の遺訓と路線を否定し、後継者として守らなければならない絶対的忠実性を放棄した。





金正恩の権力継承は、特にこの「忠実性」が重要だった。彼には自身が築き上げた業績がなかったからだ。金正恩が最高指導者となったのは、彼が北朝鮮金王朝独裁の始祖とされる金日成の血統を受け継いでいたことだけだった。先代に対する「忠実性」放棄によって先代との差別化はできるだろうが、彼の権力継承の正統性は崩れ去ることになる。





金正恩が北朝鮮の後継者原則を無視したもう一つの行為は、幼い娘を「後継者」の如く連れ回して、自身の統治に利用していることだ。労働新聞は娘に対して「嚮導者」との表現まで使った。これはその後取り消されたが、その混乱は今も続いている。このプロパガンダは、今後北朝鮮の後継者擁立作業にも大きな障害をもたらすだろう。





(下に続く)





トップ写真:北朝鮮の金正恩総書記(2019年4月25日 ロシア・ウラジオストック)出典:Photo by Mikhail Svetlov/Getty Images




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