「戦争経済に突入した世界で日本はどう生きる」その2 投資効率より安全保障が優先に
Japan In-depth / 2024年8月1日 11時0分
佐藤克己
【まとめ】
・経済行為は投資効率より、安全保障を重視する時代がやって来た。
・日本は米国を中心になくはならない国家として評価され、貿易や技術面で関係は一層強化され、日本企業は大きなビジネスチャンスを迎えている。
・強力な在米空軍と航空自衛隊を展開する日本が半導体工場の有力建設地として世界中から脚光を浴びている。
ウクライナへロシア軍が侵攻し、3年目に突入した。また、イスラエルにテロ集団ハマスが突如武力侵攻して人々を虐殺、未だに解決の糸口は見えない。そればかりか、イスラエルはイランへ本格攻撃を開始するという、ウワサが絶えない。さらにアジアに目をやれば、中国軍による台湾侵攻が近づいているとの観測も消えるどころか、強まる一方だ。ヨーロッパでは、ウクライナ戦争後の次の戦争を怖れているというのが今の、世界的な状勢だ。
冷静に見れば、世界は戦争拡大の流れにあるというのが、一目瞭然である。つれて、経済も世界的にこれまでの「グローバル経済」から「戦争経済」へ色彩を強めている。グローバル経済は各国間で人やモノ、カネが自由に行き交い、投資効率を最優先させ、安い資源や労働力を求めて国境を超えて投資する。しかし、そうした時代は終焉を迎えようとしている。端的に言えば、カネより大事なものは命である。命を失ってでも商売、カネ儲けを優先するという人はいない。もっと言えば、投資先が自分の国家、自分の家族の安全、命を脅かす国だったらどうするのか。経済行為は投資効率より、安全保障を重視する時代がやって来たと言える。
そして、グローバル経済の終焉は中国経済を衰退に、戦争経済の隆盛は日本経済の飛躍に繋がる。なぜなら、中国は明らかに日本をはじめとした西側諸国の安全を脅かす国家として注目され、各国は中国との関係を断ち切りつつあることが鮮明になってきた。一方、日本は米国を中心になくはならない国家として評価され、貿易や技術面で関係は一層強化され、日本企業は大きなビジネスチャンスを迎えている。具体例の一つとして前回、日本の造船業界を取り上げた。
そればかりではない。日本の半導体業界も然りなのだ。世界中の半導体メーカーが日本に高い関心を示しつつある。それは、日本に技術レベルの高い労働者が多く、豊富な水資源だけが理由ではない。近くに空軍基地がある点も大きな魅力となっている。いざという時(戦争状態)に、半導体工場を守ってくれる存在となるからだ。
北海道の千歳にあるラピダス工場(建設中)は青森県の三沢基地に守られ、熊本県にあるTSMCの半導体工場は新田原基地がある。ここで認識を新たにしなければならないのは、半導体は重要な軍事物資であるということだ。最先端の半導体がなければ最新鋭戦闘機は飛ばないし、ミサイルも造れない。だから、いざ戦闘状態になれば、敵国は明らかに半導体工場を攻撃してくる。世界中の半導体メーカーの経営者たちはそのことに気づき始めた。だから強力な在米空軍と航空自衛隊を展開する日本が半導体工場の有力建設地として世界中から脚光を浴びているのだ。
これに絡んで、もう一つ大切な事例を紹介したい。今年に入り米政府は主力戦闘機F35の生産中止を突如、命令したのだ。ペンタゴンをはじめ世界中の国防関係者に衝撃が走った。もちろんすでに、F35を購入している国も多数あった。その生産中止の原因は何か。それはF35のジェットエンジン部品に中国製部品が使われていた事が判明した事による。これを契機にすべての米国製兵器を対象に中国部品の使用状況を徹底調査した。すると、様々な兵器に中国製部品が使用されていることが分かった。これではいざ、中国と事を構えるようになったら、米国軍は立ち行かなくなる。この深刻な事態を踏まえてペンタゴンは慌てて、部品のサプライチェーンの見直しにとりくみ始めた。部品の精度が高く、納期に忠実な国はどこか。それは日本しかない。すでに、F35ジェットエンジン部品を日本製に替えるべく米国防総省から打診があったという。このサプライチェーン見直しは日本メーカーからすればチャンス到来である。
そして、米国議会で驚くべき提言が発表された。日本ではほとんど報道されていない。「米戦略態勢軍事報告書」と呼ばれるもので、中国とロシアの二大核大国の脅威に米国がどのように臨むのか、その大方針が示された。つまり、「米国は中国、ロシアとの同時戦争に備えなくなはならない」という過激な内容である。これまでは、中国かロシアのどちらか一カ国と戦う体制を整えてきた。それが、二カ国同時に戦う準備をするようにこの報告書では提唱したのだ。この報告書は米議会の戦略態勢委員会が作成したもので、この委員会の委員長はマンデリン・クリードン元国防次官補、副委員長はジョン・カイル元上院議員といずれも米国切っての軍事専門家だ。だから、この報告書の意味は重い。そして、見逃せないのは、日本との協力関係を強力に推し進めるとハッキリ提言した事だ。
さらに、見逃せないのはヨーロッパの動きである。英国の国防長官グラント・シャップス氏は就任当時、ランカスターハウスで「平和の配当(戦争の危機が去り、経済発展を遂げた)の時代は終わりました。私たちは5年以内にロシアや中国、イラン、北朝鮮という国々の脅威に直面する恐れがあります」と演説した。日本人も平和に浮かれてはいけない。詳しくは『「戦争経済」に突入した世界で日本はどう生きる』を読んでいただきたい。
(その3につづく。その1)
図)『「戦争経済」に突入した世界で日本はどう生きる』(著者国谷省吾、徳間書店
出典)徳間書店
トップ写真:ウクライナの最前線、ドネツク州で砲撃により破壊され、廃墟と化した聖ジョージ教会。2024年7月29日
出典:Photo by Kostiantyn Liberov/Libkos/Getty Images
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