「8月の平和論」の欠陥とは(下)自衛と抑止を放棄するのか
Japan In-depth / 2024年8月8日 11時0分
ただしどの国も戦争自体が好きということはまずない。植民地支配の争いでも領土紛争でも、まず相手と話し合い、交換条件を示し、懇願し、あるいは圧力をかける。それでもどうにも思いどおりには進まない場合、最後の手段として軍事力で相手を屈服させ、こちらの要求をのませる、ということになる。この最後の手段が戦争なのだ。
だから特定の国が戦争をしてでも獲得したいという利益を得ようとすることが戦争の原因だといえよう。その原因を実際の戦争という結果にまで発展させないようにする国家安全保障の手段が抑止である。
抑止とは、戦争を考える側の国にその戦争から受ける被害が戦争で得られる利益をはるかに上回ることを認識させ、軍事攻撃を自制させる政策である。戦争を仕かけられそうな国は攻撃を受けた場合に激しく反撃し、相手に重大な被害を必ず与えるという意思と能力を保っていれば、戦争を仕かけそうな側の軍事行動を抑えることになる。どんな国でも一定以上に自国が被害を受けることがわかっている行動はとらないからだ。まして負けてしまうことが確実な戦争を挑む国はまずない。
つまりどの国も自国の主権や繁栄、安定を守るためには自衛のための軍事能力を保ち、いざという際にはそれを使う意思をも明示しておくということである。これが自衛のための抑止力のメカニズムとされる。他国の軍事的な侵略や攻撃を防ぐ、つまり平和を保つための手段である。勝てそうもない戦争、自国がかえって重大な被害を負ってしまう戦争を避けるのが理性的な近代国家だからだ。
アメリカの歴代政権もこの抑止政策を保ってきた。そのための軍事能力を保持してきた。「備えあれば、憂いなし」ともいえよう。トランプ政権にいたっては自国にとっての平和も、世界的な平和も「力による平和」と定義づける。実際の強大な軍事力の誇示によって潜在敵国の軍事行動を事前に抑えてしまうという趣旨である。
トランプ前政権の「国家防衛戦略」には以下の記述があった。
「戦争を防ぐための最も確実な方法はその戦争への準備を備え、なおかつ勝利する態勢を整えることだ」
きわめて明快、かつ単純である。戦争を仕かけられても必ずそれに勝つ態勢を保っていれば、そんな相手に戦争を仕かけてくる国はいなくなる、ということである。
現実の国際情勢では平和を保つ、つまり戦争を防ぐという政策はこれほどの実効力を伴うのである。日本の「8月の平和論」とは白と黒、まったく異なるのである。
(終わり。上はこちら)
*この記事は日本戦略研究フォーラムのサイトに掲載された古森義久氏の論文の転載です。
トップ写真:尖閣諸島・魚釣島 出典:内閣官房 領土・主権対策企画調整室「尖閣諸島フォトギャラリー」
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