威嚇する猫は殺処分対象か? 孤高のシャーシャー猫限定譲渡会をきっかけに考える
Japan In-depth / 2024年8月26日 19時12分
中川真知子(ライター/インタビュアー)
【まとめ】
・「最強の保護猫譲渡会」2回目が開催され、43匹の猫が参加し5匹に声がかかった。
・主催者の「保護猫カフェ ねこかつ」は、人馴れしていない猫の里親探しを目的としている。
・シャーシャー猫は人に慣れていないが、猫との相性は良く、特定の人に心を開くことがある。
8月12日、練馬区の大泉学園にて、人馴れしていないネコ限定の譲渡会が開催された。
「最強の保護猫譲渡会」と題された同イベントが開催されたのは2回目。第1回目は2月23日の、まだ寒さが厳しい時期だった。
「人に慣れていないシャーシャー猫(注1)だけの譲渡会! 」と書かれ、牙を剥いて威嚇する猫たちの写真が踊るイベントポスターは、そのインパクトの強さゆえに瞬く間に拡散され、当日は来場者が列をなし、メディアの取材も盛んに行われた。
その日、譲渡会に参加した猫は44匹だったが、18匹に声がかかったという。
非常に好調な滑り出しの「シャーシャー猫イベント」だが、この手のイベントは持続可能なのだろうか。Japan In-depthは、第2回目の譲渡会を訪れた。
■ 人慣れしないネコを救う人たち
写真)保護猫譲渡会の様子
Photo: 中川真知子
「最強の保護猫譲渡会」を主催したのは「保護猫カフェ ねこかつ」。代表者の梅田達也氏は、シャーシャー猫に限定した譲渡会を開催した理由を次のように語った。
「人に慣れていない猫は普通の譲渡会では里親と巡り会う確率が低くなり保護施設にとどまる傾向がある。新たに保護猫を受け入れるためにもシャーシャー猫たちにも里親と出会って欲しかった」。
写真)「保護猫カフェ ねこかつ」代表者 梅田達也氏
Photo: 中川真知子
一般的な譲渡会では人慣れしていて積極的な猫の方が注目されやすく、里親も探しやすい。人慣れしていないシャーシャー猫は、賑やかな環境で緊張状態にあったり、ストレスを感じてタオルの中に顔を隠してしまったりするため、素通りされてしまうことも珍しくない。
写真)各猫は触れないのが大前提。その上でどう暮らしていきたいかが書かれている
Photo: 中川真知子
梅田氏の「ねこかつ」をはじめ、同譲渡会に参加した活動家の方々は「保護する猫を選定しているわけではない」ため、施設の中には一定数のシャーシャー猫がいる。その子達に終のすみかとの縁を繋ぐために、シャーシャー猫にフォーカスした会の開催を思いついたのだと言う。
それには多少の葛藤もあった。というのも、シャーシャー猫の特性を知っている人たちから、「猫に過度なストレスと与えるのはかわいそう」などといった否定的なコメントが寄せられる可能性も考えられたからだ。それでも開催に踏み切ったのは、シャーシャー猫との生活を必要としている人もいるからだ。
猫にも個性や特性があるように、猫と暮らしたい人間側にも、猫との暮らしに求めるものが違う。側にいてくれるだけでいい、時間をかけてゆっくりと信頼関係を築きたい、そこに生き物の温もりを感じられるだけでいい、と思っている人にとって、シャーシャー猫は最適な存在となりうる。それに、時間をかけて信頼関係を築いたときの喜びはひとしおである。
梅田氏をはじめとするスタッフの方々は、そういったシャーシャー猫の魅力を熟知しているのだ。
■ シャーシャー猫に対する誤解
イベントポスターを見ると、シャーシャー猫は常に何かに怯え、凶暴で気難しい印象を受けるだろう。人間が近寄ろうものなら牙を剥いて「シャー! 」と威嚇音を出しそうだ。
だが、実際は穏やかで拍子抜けするほど静かだった。猫たちは、体を強張らせて人間を静かに観察していた。梅田氏に聞いたところ、「シャーシャー猫は誰彼構わず威嚇するわけではない。人慣れしていないので、お世話のときに嫌がられてシャーっと言われることはあるが、凶暴な猫という意味ではない」らしい。
つまり、譲渡会のような、来場者がケージの外から見て回る環境では「シャー」が出る確率はとても低い。個人で保護猫ボランティアをしている女性は、「シャーシャーの顔は世話をする人だけが見れる特権」だと目を細める。
写真)シャーシャーの顔は世話する人の特権。簡単には拝めない。
Photo: 中川真知子
また、興味深い話も聞けた。それは、シャーシャー猫は「人には慣れていなくても猫との相性は悪くない」ということだ。そのため、会場には「先住猫がいるが2匹目としてシャーシャー猫を」と縁を求めてやってきた方達も少なくなかった。
「たとえ触れ合うことができなかったとしても、その子が他の猫たちと仲良く暮らしてくれるだけで十分だと考えてくれる人はシャーシャー猫と暮らせる可能性が高い」と前述の梅田氏は言う。
また、「むさしの地域猫の会」のスタッフは「シャーシャー猫の難易度はハンドリングの難しさを基準にしてる」と話してくれた。
写真)無性の愛を与える存在としてのシャーシャー猫
Photo: 中川真知子
「慣れてくれなくても、目の前でご飯を食べてくれたり、おやつを食べてくれたりすれば、病院に連れていくときにケージにも入れやすいので飼育難易度は低めと判断しています。一方で、ケージに入れることすら苦労するとなると難易度は上がります」と艶やかな黒い長毛が目を惹くミーナに目を向けて語った。
ミーナは屋外生活が長く警戒心が非常に高いらしく、この譲渡会に連れて来れたのも運良くケージに入れるチャンスに恵まれたからだ。警戒心を高めなければ生きて来れなかったミーナの外での暮らしを想像すると心から頭が下がる。人間側の都合に振り回されることなく、自分のペースで生きてほしい。そう思わざるを得ない、
■ 人慣れしない猫=譲渡不適合ではない
写真)液状おやつでコミュニケーションを図る
Photo: 中川真知子
この日のイベントに参加したのは43匹で、最終的に5匹に声がかかった。梅田氏は、帰り支度をしていた筆者に満面の笑みを浮かべて報告してくれた。
イベント開始前、「1回目は話題性もあって多くの方にきてもらえた。でも2回目はあまりきてもらえないかもしれない。1匹でも声がかかれば嬉しい」と不安混じりの言葉を口にしていた。そのため、5匹の猫に縁ができたことは大きな喜びだったに違いない。
写真)素晴らしい縁に恵まれた「パセリ」
Photo: 中川真知子
この結果を見ても、シャーシャー猫は譲渡先がないわけではないことがわかる。良縁に恵まれるまでに時間はかかるかもしれないが、PRの仕方を工夫すればマッチングさせられるのだ。
だからこそ、筆者を含め、保護活動をする人たちは東京都の「ペット殺処分ゼロ」の政策に複雑な思いを抱く。
東京都は、2016年に犬の、2018年に猫の殺処分ゼロを達成したと報告している。だが、この数字にはカラクリがあり、譲渡に適さない個体だけは例外として殺処分しているのだ。「譲渡に適さない」という言葉の中には、人に慣れていないシャーシャー猫も、高齢の個体も残念ながら含まれている。
ゼロという綺麗で理想的な数字の裏に黙殺された子たちの存在がある。だが、人間側の考えを変えるだけで、都合よく「不適合」と言われてしまった子達にも、幸せな生活を送ってもらえた可能性がある。そう思うと、やるせない気持ちになるし、動物たちを取り巻く状況を抜本的に考えたくなる。
このイベントから数日が経過したころ、Xで、島忠のホームズ与野店におけるワンチャンネコちゃんの「陳列販売」終了を知らせるポスターの写真とともに、ホームセンターにおける生体販売への是非を問いかける投稿が流れてきた。
同店舗のポスターには、生体販売ではなく保護動物との出会いの場を提供したい、といった内容が書かれていた。
これは、ペット業界における大きな変化の第一歩だと言えるだろう。販売先が減れば、無法地帯と化しているブリーディングも減少し、ルールが定めらていく可能性がある。また、ペットのブランド化、アクセサリー化にも疑問を持つ人が増えるかもしれない。一部の店舗のホームセンターにおける生体販売中止という決定の前に、どれほどの命が消えていったのか、梅田氏のような人々の努力があったのかを考えると熱いものが込み上げる。
Japan In-depthは、今後も動物保護活動や、ペット業界の動向をしっかりと追っていきたい。
注1)シャーシャー猫
人慣れしておらず、相手を警戒して、「シャー!」と鳴く猫のこと。
トップ写真:保護猫譲渡会の様子 2024年8月21日 東京都練馬区
出典:中川真知子
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