【アジア版NATO】 石破氏はオタク政治家?
Japan In-depth / 2024年10月8日 16時26分
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2024#41
2024年10月7-10月13日
【まとめ】
・石破政権の日米安全保障やアジア版NATO構想への懸念がワシントンで浮上。
・筆者は「石破氏はオタク政治家で、現実的な統治者になれるかが鍵」と考察。
・在京外国プレスから好評を得た。日本メディアの報道には公平性が欠けているとの声も。
今週のハイライトは、日本では10月9日の党首討論・衆議院解散から10月27日投票までの総選挙の行方だろう。だが、国外、特に欧米の関心は10月7日のハマースによるイスラエル奇襲攻撃「一周年」と、近く行われるだろうイスラエルによる対イラン大規模直接報復攻撃の米大統領選挙への悪影響ではないかと思う。
まずは、石破政権の誕生から。先週は、米国の旧友から総裁選中に石破候補が提唱した日米安全保障条約・地位協定の改定やアジア版NATO構想を「どう理解したら良いのか、率直な意見を聞かせて欲しい」というメールが来た話を書いた。どうやらこれって、ワシントンのアジア関係者の間ではかなり問題視されているらしい。
気になった筆者は、先週急遽、JapanTimesに「あまり気にする必要はない」という趣旨のコラムを寄稿した。具体的には、「米国の一部で懸念の声が上がっているらしいが、親愛なる読者の皆様、そして多くの米国の友人にお伝えしたい。あまり神経質になる必要はない。」と書いたのだ。
更に続けて、「石破茂氏は、事実関係の詳細を理解した上で、自らの願望を政策として発言する傾向のある、良い意味でのオタク政治家である。問題はそうしたオタク政治家が現実的な『統治者に化ける』ことができるか否かである。」と結んだ。別に、新内閣を擁護するために書いた訳ではないのだが・・・。
これに対し、意外なところからお褒めの言葉を頂いた。勿論、石破官邸からではない。何と複数の在京外国プレスからこんなコメントが届いた。「あの石破に関するコラムは良かった」「石破は誤解されやすく、日本メディア報道は公平ではない」というのだ。これぞジャーナリズム、彼らの仕事は「事実を正確に伝える」ことだと思うのだが。
続いては、イスラエルの対イラン報復の攻撃対象・時期・規模について。実はこの話、先週から欧米メディアでは最大関心事の一つとなっていたのだが、日本では自民党総裁選挙・新内閣誕生に関心が集中したためか、あまり注目されて来なかった。それにしても、この欧米とのギャップの大きさは、相変わらずとはいえ、深刻だと思う。
イスラエルとヒズブッラーに関するこれまでの動きを時系列で振り返ってみよう。
9月17-18日 ヒズブッラー調達のポケベルと無線機が爆発し多数の死傷者
9月23日 イスラエル、対ヒズブッラー軍事作戦を本格化
9月27日夕 イスラエル、ヒズブッラー指導者ナスルッラー師を空爆で殺害
アメリカが提示した21日間の即時停戦案の交渉が中断
10月1日未明 イスラエル、レバノン地上侵攻を開始
10月1日夕 イラン、200発近い弾道ミサイルでイスラエルを直接攻撃
以上につき、BBCは「自らの代理勢力が混乱状態にある中、イランは一定の抑止力を回復するため、4月にミサイルとドローンで行った対イスラエル攻撃よりも劇的な何かをする必要があると考えた。それゆえに、今回の攻撃では事前通告なしに、前回より多くの弾道ミサイルが使用された。」と分析している。妥当な判断だと思う。
興味深いのは、それでもBBCは「イランの姿勢を誇示する以上の実質的な意味合いのある攻撃ではあったものの、イランが全面戦争を望んでいると示すものではないようだ。・・・本格的な戦争になれば、負けるのは自分たちで、しかも惨敗することになると、イランは承知している。」と分析していることだ。筆者もその通りだと思う。
イスラエルによる対イラン攻撃は恐らく時間の問題だろう。核施設は狙わないだろうが、原油施設を狙えば、下手をすると、湾岸地域にまで戦場が拡大し、同地域に輸入原油全体の9割を依存する日本のエネルギー動脈は、一時的にせよ、止まる恐れすらある。こうした当たり前の問題意識が、残念ながら、日本には欠けているのだ。
実際、10月4日の石破新総理の施政方針演説の外交部分では、イスラエルやイラン、湾岸地域などに関する言及が全くない。冒頭で「・・・中東情勢なども相まって、国際社会は分断と対立が進んでいます。」と触れただけである。この日本と欧米の感度のギャップには、毎度のことながら、驚きを禁じ得ないのだが・・・。まあ、いいか。
続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。
10月8日 火曜日 ASEAN首脳会議開始(ラオス)
ジャンム・カシミールでの選挙結果発表
NATO事務総長、フィンランド大統領と会談(ブラッセル)
10月9日 水曜日 クロアチア、南東ヨーロッパ諸国とウクライナの首脳会議を主催
モザンビークで総選挙
国連総会、人権委員会の新メンバー国を選出
10月10日 木曜日 米大統領、訪独(3日間)
欧州委員会新委員長、独首相と会談(ベルリン)
欧州委員会現委員長、モルドバ訪問、同国大統領と会談
10月13日 日曜日 リトアニア、議会選挙
米大統領、アンゴラ訪問(3日間)
最後はいつものガザ・中東情勢だが、今後は全てがイスラエルの対イラン報復攻撃の結果次第なので、今回はお休みとする。但し、今のイラン国内の状況が、もしかしたら、1930年代の日本国内の状況に似ているのではないか、と思い始めたので、近く関連コラムを執筆する予定である。詳細はまた来週・・・。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真:東京で行われた自由民主党党首選挙の決選投票を前に演説する石破茂党員。2024年9月27日。
出典:Photo by Hiro Komae - Pool/Getty Images
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