米ロジウム・グループ、2035年までの温室効果ガス排出削減量の見通し発表(米国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年7月25日 13時25分
米国調査会社のロジウム・グループは7月23日、米国の温室効果ガス(GHG)排出量の予測を発表した。2023年の排出量は2005年比で18%減少したとした上で、インフレ削減法(IRA)やインフラ投資雇用法(IIJA)、排出量削減を目的とした各種連邦規制、州レベルでの取り組みを含む現在の政策などを基に、2035年までのGHG排出量予測を行っている。
見通しでは、2005年比で2030年は32~43%減、2035年は38~56%減と試算している。バイデン政権の国際公約である2030年までに50~52%削減するという目標には届かないものの、IRA成立以前の2022年7月に発表した見通し(2005年比で2030年は24~35%減、2035年は26~41%減と試算)と比較すると大きく前進しており、ロジウム・グループは「政府のあらゆるレベルで制定された政策はかつてないほど強力になっている」「排出量の削減は目に見えて加速している」と評価した。
部門別にみると、現在最もGHG排出量のシェアが大きい輸送部門では、環境保護庁(EPA)のGHG排出規制の影響もあって電気自動車(EV)の販売割合が大幅に増加し、2035年における排出量は2023年比で22~34%減少する。次いでシェアが大きい電力部門では、IRAやEPAの規制による効果もあって風力、太陽光、原子力などのゼロ・エミッション電源が大幅に拡大(注1)することにより、排出量は同42~83%減少する。産業部門では、EPAによる規制に伴って石油・天然ガス生産におけるメタンガス排出量が減少することなどにより、排出量は同2~15%減少する。
一方、こうした結果を実現するためには課題があるとも指摘した。1つは、電力需要の急増だ。自動車の電動化、クリーンエネルギー関連の製造施設の増加、人工知能(AI)の導入に伴うデータセンター需要などが要因となって、2035年の電力需要は2023年比で24~29%増となると見込む。また、送電網の整備の遅れなど電力供給におけるボトルネックが発生し、再生可能エネルギーの導入が制限される可能性があるとも指摘。電力需要の急増と供給におけるボトルネックが同時に発生した場合、電力部門のGHG排出量はベースラインケースと比較して56%(約2億7,500万トン)増加する可能性があるという。
これに加え、司法面や政治面での不確実性の高まりもリスクとして挙げている。今回発表した予測では、GHG排出量削減のかなりの部分を規制の強化に依存しているが、連邦最高裁判所によるシェブロン法理(注2)を無効化する判決(2024年7月24日記事参照)や政権交代に伴い、こうした規制が撤回されるリスクがあるとする。また、11月の大統領選挙および連邦議会上下院選挙で共和党がトライフェクタ(1つの政党が大統領職と上下両院の多数派を占める状態)を実現した場合、排出量削減に資するIRAの重要な部分を弱体化または削除しようとする可能性がある、とも指摘している。
(注1)発電に占める太陽光、風力、原子力などからなるゼロ・エミッション電源のシェアは2023年の43%に対し、2035年には62~88%にまで拡大すると予測している。
(注2)曖昧な法律を政府の規制当局が解釈できる権限を持ち、裁判所もその規制が合理的である場合には政府の判断を尊重するという法理。2024年6月に連邦最高裁判所は「裁判所は、政府の規制当局が法定権限の範囲内で行動したかどうかを判断する際に、独自の判断をしなければならない」として、この法理を破棄した。これに伴って、環境や医療、消費者安全などを規制する連邦政府機関による一連の措置に対して、不服申し立てが促される可能性がある。
(加藤翔一)
(米国)
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