第1回米大統領候補者討論会、政策議論は深まらず(米国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年7月1日 11時20分
11月の米国大統領選挙に向けた第1回の大統領候補者による討論会が6月27日、米メディアCNNの本社がある、ジョージア州アトランタで行われた。討論会には、民主党のジョー・バイデン大統領と共和党のドナルド・トランプ前大統領のみが参加した。ただ、政策面での議論は深まらず、互いの政権の批判に終始した(2024年6月11日記事、2024年6月28日記事参照)。
討論会はまず、経済とりわけ、インフレを巡る質問から始まった。バイデン氏は、新型コロナウイルス(以下新型コロナ)のパンデミックへの対処にトランプ氏が失敗し、経済は崩壊したと批判した後、自身の政権では雇用の拡大に成功したと述べた。またトランプ氏の減税は、結果的に巨額の財政赤字を拡大させたと指摘した。これに対しトランプ氏は、バイデン政権下で増えた雇用は、不法移民と新型コロナ収束後による反動によるものだけだと批判した。またトランプ氏が公言している、全ての国からの輸入への10%の関税賦課については、物価は押し上げないとした上で、中国などのように長年にわたって米国に不公正な慣行を敷いている国から徴収し財政赤字を大幅に削減するものだとの見解を示した。
人工妊娠中絶については、バイデン氏は、米最高裁が2022年6月に破棄した「ロー対ウェイド」判決(2022年6月27日記事参照)を支持すると明言した後、仮にMAGA共和党(注1)が議会を支配して6週間以内の中絶しか認めないといった保守的な法案が提出されても拒否権を発動すると述べた。一方でトランプ氏は、最高裁による人工妊娠中絶薬の承認(2024年6月17日記事参照)を支持すると述べつつ、中絶の権利は州が決めるとする立場を崩さなかった。
移民については、バイデン氏が不法移民の数は減ったと主張する一方で、トランプ氏は、テロリストが入国し米国民が危険にさらされていると述べた。また、国境措置を強化する法案が議会を通らないことについてトランプ氏は、国境を閉鎖するのに法律は必要なく大統領の権限で実行可能だとバイデン氏を批判した(2024年5月31日記事参照)。
ロシアによるウクライナ侵攻については、トランプ氏は自身が大統領であれば起きなかったと繰り返し述べ、地理的に欧州諸国は米国よりもウクライナに近接しているにもかかわらず、欧州諸国のウクライナへの支援は米国よりも少ないと批判した。一方、バイデン氏は、NATOも米国と同程度の支援をしていると述べた。
トランプ氏は、議会議事堂襲撃についての司会者からの質問に直接的に答えることを避け、襲撃のあった2021年1月6日、米国の国境は適切に管理され、エネルギー面で自立しており、税金が最も低く、規制が最も少ない時だったと、自身の実績のアピールを繰り返した。バイデン氏は、トランプ氏が人々を議事堂に向かうよう促したと指摘した。
気候変動対策については、トランプ氏は、パリ協定(注2)は米国に負担を強いる一方で、中国やロシア、インドの負担はないとし、米国にとって資金の無駄であるため離脱したと述べた。これに対しバイデン氏は、気候変動を人類にとって唯一の存亡危機と述べ、その重要性を強調した。
なお、CNN(6月28日)は、討論会の間、トランプ氏は30以上、バイデン氏は少なくとも9つ、事実に基づかない発言をした、と報道した。他方、「ニューヨーク・タイムズ」紙の記者は「CNNの司会者は、もっとファクトチェックを行い、明らかに虚偽であることを視聴者に知らせてほしい」とSNSで発信し、事実に基づかない情報が大手メディアで発信されることに警鐘を鳴らした。
ジェトロの特集ページ「2024年米国大統領選挙に向けての動き」では、大統領選挙に関する最新動向を随時紹介している。
(注1)MAGAは、Make America Great Again(米国を再び偉大に)の略。元はドナルド・トランプ前大統領の選挙キャンペーンのスローガンだが、今では民主党支持者らがトランプ氏と共和党の同氏支持者を批判的に表現する際に用いられることが多い。
(注2)トランプ政権時にパリ協定を離脱し(2017年6月5日記事参照)、バイデン大統領が就任後に復帰した(2021年1月21日記事参照)。
(赤平大寿)
(米国)
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