タイ米USTR代表が英紙に寄稿、労働者中心の通商政策とデータ保護の優先をあらためて表明(米国、中国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年5月30日 11時55分
米国通商代表部(USTR)のキャサリン・タイ代表は5月28日、「フィナンシャル・タイムズ」紙に「貿易は社会契約における役割を変革しなければならない」と題する論考を寄稿した。バイデン政権が掲げる、労働者中心の通商政策をあらためて主張したほか、デジタル貿易についてはデータ保護を優先する姿勢を示した。併せて、中国の不公正な貿易慣行に対する懸念も表明した。
論考では冒頭、国際的な経済協力は「全ての人々のために、労働基準の改善、経済発展、社会保障の確保を目的とする」と記された大西洋憲章を引き合いに、貿易も社会契約の一部でなければならないとした。具体的には、労働者の利益に資する経済政策が必要だと述べ、富裕層が豊かになることで富が再分配されるとするトリクルダウンのアプローチに従ってきたこれまでの通商政策を批判した。
また「自由放任制度」は、短期的な利益を追求する企業が非市場的な独裁主義国と連携することでその利益を最大化し、生産が特定の国に集中することで、中国などの独占的行動を助長したと述べた。こうした状況が米国の労働者に弊害をもたらしているからこそ、バイデン政権の貿易に対するアプローチは、経済的機会を民主化することだと説いた。自由貿易の拡大によって各国が豊かになるにつれ、労働基準が改善されると盲信するのは過ちとした。こうした状況に対して労働者を保護するための具体的な措置に、これまでどおり、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRM)」を例示した。直近では、メキシコにあるフォルクスワーゲン(VW)の工場で労働権の侵害の疑いがあるとして、メキシコ政府に事実確認を要請している(2024年5月30日記事参照)。
現在のUSTRにとって、通商政策は単なるモノの移動を規定することにとどまらず、多くの人々が経済的機会と正義にアクセスできるようシステムを再構築することだと述べ(注1)、その一環として、デジタル貿易ルールの見直しに取り組んでいるとした。世界各国は自国民のデータを保護する方法を模索しており、貿易ルールはそうした取り組みを支援するものでなければならないとした。デジタル貿易のルール形成に関しては、米国内で意見の隔たりが大きく(2024年2月15日記事参照)、連邦議会下院の監視・説明責任委員会がUSTRを調査する事態にも発展している(2024年3月11日記事参照、注2)。今回、タイ代表があらためて、データの越境移動ではなく保護を優先する姿勢を鮮明にしたことで、さらなる波紋を呼びそうだ。
タイ代表はまた、中国は単なる貿易相手国ではなく、主要な経済分野にわたって世界的な優位性を追求していることを認識しなければならないと指摘し、電気自動車(EV)やバッテリーの関税引き上げは、米国の労働者と企業を守るものだと説明した。USTRは5月に、1974年通商法301条に基づく対中追加関税率の引き上げを発表したが(2024年5月23日記事参照)、中国はこの決定に反発している(2024年5月20日記事参照)。
(注1)伝統的な通商協定からの脱却を目指す、バイデン政権の通商政策の方針については、2024年2月9日付地域・分析レポートを参照。
(注2)監視・説明責任委員会は5月2日、同委が3月に行った調査にUSTRが適切に対応しなかったとして、インタビューなどさらなる調査を行うと発表している。
(赤平大寿)
(米国、中国)
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