中国商務部、EUの中国企業への調査行為を「貿易投資障壁」と認定、具体的措置には言及せず(中国、EU)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2025年1月20日 0時30分
中国商務部は1月9日、EUの「外国補助金規則」に基づく中国企業への調査の方法に対して実施していた貿易投資障壁調査の「最終結論の公告」を発表した。商務部は中国機電産品輸出入商会の申請を受け、2024年7月10日から貿易投資障壁調査を開始していた(2024年7月12日記事参照)。
貿易投資障壁調査の結果と、同調査の根拠規定の「対外貿易障壁調査規則」の規定に基づき、商務部はEUの行為が同規則第3条に定める「貿易投資障壁」を構成すると認定した(注1)。
最終結論では、「EUによる調査」の方法について、差別的・恣意的な法執行、「外国補助金」の認定基準の曖昧性、同条例の調査範囲が膨大で企業の対応負担が重いこと、同条例の調査プロセスが非公開、不透明で不確実性が高いこと、「EUによる調査」で行われた抜き打ち検査などの手段が必要な限度を超えていること、「市場を歪曲」などの重要な認定が主観的・恣意的なことなどの点を指摘した。また、これらの不合理な方法はWTOの核心的な原則の無差別原則などに違反するとした(注2)。その上で「EUによる調査」が中国企業・製品のEU市場への参入を妨害・制限し、また中国企業・製品のEU市場での競争力を損なったと認定した。他方、同認定に基づく具体的な措置などは現時点では公表されていない(注3、注4)。
EUは、中国製バッテリー式電気自動車(BEV)が市場を歪めているとして、2023年10月に反補助金調査を開始し、同調査の結果を受けて、2024年10月から中国製BEVに対する相殺関税を課している(2024年12月19日付地域・分析レポート参照)。また、中国は同年6月にEU産豚肉・副産物に対するアンチダンピング(AD)調査(2024年6月20日記事参照)を、同年8月にEU産乳製品に対する反補助金調査(2024年8月29日記事参照)を開始したほか、同年10月には一部のEU産ブランデーに対して実施していたAD調査による初歩的な認定に基づき、暫定措置として輸入時に保証金の徴収を開始している(2024年10月18日記事参照、注5)。
(注1)「対外貿易障壁調査規則」第3条では、ある国・地域政府が実施または支援している措置や慣行に、次のいずれかの状況が存在する場合、「貿易障壁」と見なすとしている。
1. 当該国・地域と中国が締結した、または参加している経済貿易条約または協定に違反している、あるいはその経済貿易条約または協定に定めた義務を履行していない。
2. 次のいずれかの貿易上の悪影響を及ぼすこと:(a)当該国・地域の市場または第三国・地域の市場への中国の製品・サービスの参入を妨害・制限、またはその恐れがあること。(b)当該国・地域の市場または第三国・地域の市場で、中国の製品・サービスの競争力を損なう、またはその恐れがあること。(c)当該国・地域または第三国・地域から中国への製品・サービスの輸出を妨害・制限する、またはその恐れがあること。
(注2)最終結論では、EUの法執行で中国企業に対する差別的な扱いとして、公共調達で中国企業のみに過度に詳細な調査を行い、また、同種の製品に関する調達プロジェクトで中国企業のみに調査が実施され、その具体的理由が説明されないことなどによって、中国製品が第三国・地域の製品と比べて、EUへの輸出に不利な扱いを受けていると指摘している。
(注3)対外貿易障壁調査規則第33条では、貿易障壁調査の対象となる措置や慣行が同規則第3条に定義する「貿易障壁」に該当すると認定した場合、商務部は状況に応じて2者協議の実施や、マルチの紛争解決メカニズムの開始、その他適当な措置を取ることができるとしている。
(注4)直近の事例では、2023年に台湾による中国大陸産製品に対する輸入禁止措置などについて、貿易障壁調査を実施し、台湾の措置を「貿易障壁」と認定した後、海峡両岸経済協力枠組み協定(ECFA)による台湾への関税引き下げ措置の一部停止などの措置を取った(2023年12月19日、同年12月25日記事参照、詳細はジェトロ調査レポート「中国の『貿易障壁調査』について」を参照)。
(注5)EU産豚肉・副産物に対するAD調査の期間は最長で2025年6月17日まで、EU産乳製品に対する反補助金調査の期間は最長で2025年8月21日までとなっており、いずれも特殊な事情があれば、さらに6カ月まで延長できる。なお、一部のEU産ブランデーに対するAD調査の調査期間は2025年1月5日までだったが、2024年12月25日付の公告により、2025年4月5日まで延長されている。
(小宮昇平)
(中国、EU)
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