マッハ5で飛行する航空機開発の米ハーミアス、フロリダ州に試験施設建設（米国）

音速の5倍のマッハ5（時速約6,120キロ）の極超音速（注1）で飛行する航空機を開発する米国スタートアップのハーミアス（本社：ジョージア州アトランタ）は9月9日、フロリダ州ジャクソンビルで極超音速エンジンの試験施設の起工式を行った。1億3,500万ドルを投じ、10年間で100人以上の雇用創出を見込む。

ハーミアスは、極超音速旅客機で世界の航空旅客輸送ネットワークを変革するというビジョンを掲げ、2018年に創業した。世界初の商用タービンベース複合サイクルエンジン「キメラ」（注2）、同エンジンを搭載した極超音速無人試験機「クォーターホース」、防衛・国家安全保障用マルチミッション極超音速無人航空機システム「ダークホース」、ニューヨークとロンドン間を90分で飛行する極超音速旅客機「ハルシオン」の開発に取り組んでいる。

同社は「毎年1年未満で航空機1機を設計、製造、飛行させる」ことを目標に掲げ、迅速かつコスト効率の高い開発に取り組んでいる。2020年2月、マッハ5の速度を出せるエンジンのプロトタイプ試験をわずか9カ月間でゼロから設計・組み上げることで成功させ、2022年11月に「キメラ」の実証試験、2023年11月には飛行を目的としない試作機「クォーターホースMk 0」を用いた実際の環境下での各種機能の試験を完了した。2024年3月には同社初の航空機「クォーターホースMk 1」を公開した。同社は、2020年8月の米空軍との提携以降、米空軍や米航空宇宙局（NASA）との連携や民間投資を得て事業を進めている（注3）。

新施設は、高エンタルピー（注4）吸気試験施設（HEAT）と名付けられ、高超音速と極超音速の中でも下位レベルの飛行実動試作に必要な高率の空気流、高エンタルピー、低圧力の各条件を継続的に提供する、同社にとって最大かつ技術的に最先端の試験施設となる。「キメラ」エンジンなど多様なエンジンと推進系のサブシステムを試験する予定で、2024年末までに最初の海面静的エンジンの試験（sea-level static engine test）実施を見込んでいる。将来的には、連続した高マッハ乱気流を施設に導入し、飛行している状態に近い高マッハ試験条件を地上でシミュレーションする予定だ。また、2026年には商用高マッハ飛行試験サービスの展開を予定している（注5）。

新施設が立地するセシル空港（注6）には、複数のテストセル（運転試験設備）やハッシュハウス（減音施設）など、重要なテストインフラが既に整備されており、新施設はこれらを活用して建設される。また、ジャクソンビルは、航空宇宙分野の人材供給が豊富で、極超音速飛行試験用空域へのアクセスも良い。ハーミアスのAJピプリカ共同設立者兼最高経営責任者（CEO）は同空港を選んだ理由として、同社が必要とするインフラの多くが既に存在している点を挙げ、「米国には、極超音速吸気型エンジンを迅速かつ低コストでテストする能力が欠けている。数少ない試験施設は利用できるまで何年も待つ必要があり、また、法外な費用がかかるが、HEATはより経済的、かつ変化の激しいニーズに応えられる」と語った。

（注1）ハイパーソニック（hypersonic）。音速を大きく上回る速度のことで、通常はマッハ5以上を指す。

（注2）米空軍なども使用しているゼネラルエレクトリック（GE）製J85ターボエンジンをベースに自社開発したもの。ターボエンジンと超音速以上で作動するラムジェットエンジンを組み合わせた仕組みのエンジン。

（注3）2021年2月に米航空宇宙局（NASA）と最速民間航空機の開発で提携を発表し、8月に米空軍と提携して「クォーターホース」の飛行試験に6,000万ドルの資金提供を受けることを発表した。2022年には、3月にオープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者（CEO）率いるシリーズBラウンドを通じて、「クォーターホース」と「ダークホース」開発のための1億ドルの資金調達を発表したほか、5月に米国の航空機・防衛大手レイセオン・テクノロジーズ（本社：マサチューセッツ州ウォルサム）からの出資受け入れを発表している（2022年5月24日記事参照）。

（注4）物体が持つエネルギーの総量。単位はkj（キロジュール）やkcal（キロカロリー）で表す。

（注5）商用高マッハ飛行試験サービスは2026年に開始され、政府機関や民間の需要に対応すべく、週1回の試験実施を展開していく予定だ。

（注6）1999年に閉鎖された海軍航空基地跡に設立された空港で、2010年に東海岸で初めて、国内で8番目に米連邦航空局（FAA）の認可を受けた水平発射型（horizontal launch）の商業宇宙港でもある。

（横山華子）

（米国）