米USTR、USMCAの自動車貿易報告書を発表、厳格な原産地規則維持の姿勢鮮明に(米国、メキシコ、カナダ、中国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年7月3日 14時0分
米国通商代表部(USTR)は米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)発効から4年に当たる7月1日、USMCAの自動車物品貿易に関する報告書を連邦議会に提出した。米国の「USMCA実施法」はUSTRに対して2年ごとに、USMCAの自動車物品貿易の運用状況の議会への報告を義務付けており、今回は2022年に続いて2回目の報告となる(2022年7月4日記事参照、注1)。
今回の報告書は前回同様、自動車の原産地規則(ROO)による影響を中心にまとめた。報告書では、段階的に厳格化されたROO(注2)を満たせない自動車・同部品の対米輸出の増加が示された。カナダまたはメキシコから米国に輸入された自動車のうち、関税が賦課された割合は2019年の0.5%(5億1,700万ドル)から2023年に8.2%(89億ドル)に上昇した。2023年に関税が賦課された自動車輸入のうち、約90%(79億ドル)はメキシコからの自動車(HS 8703.23)だった。自動車部品も同様に上昇し、米国への輸入時に関税が賦課された割合は2019年の9.3%(70億ドル)から2023年には20.5%(197億ドル)と2倍以上になった(注3)。2023年に関税が賦課された自動車部品輸入の多くは、メキシコからの車体部品、ディーゼルエンジン、ステアリング・ホイールだった。
USMCAの紛争解決パネルで争っていた主要部品(コアまたはスーパーコア)の域内原産割合(RVC)の解釈については、2023年1月に米国の主張を退ける最終報告が出ているものの(2023年1月13日記事参照)、報告書では「まだ合意に至っていない」とした。その上で、パネル審議中に提出されたデータによると、「メキシコとカナダの解釈は、米国の解釈よりも自動車1台当たりの北米原産割合が10%あるいは20%以上低くなる可能性がある」として、域内での生産を強化する「USMCAの重要な目標が損なわれ得る」と述べた。これに関し、米国通商専門誌「インサイドUSトレード」(7月2日)は、米国は「紛争解決パネルの裁定に従うつもりはないことを明確にした」と評した。
昨今、米国で懸念されている中国製の電気自動車(EV)の流入については、「ステークホルダーは、メキシコの自動車部門への中国からの投資の拡大が北米自動車産業の競争力に大きな脅威をもたらすとの懸念を表明した」と記した。続けて、米国、カナダ、メキシコが協力して中国の投資拡大に対処すべきとする産業界のコメントを紹介した。一方で、メキシコのフアン・カルロス・ベイカー元経済省通商担当次官は、6月に米国のシンクタンクで行われたウェビナーで「メキシコでは、中国を切り離すという政治的要因は存在しない」「中国という課題にメキシコも対処しなければならないが、ワシントンが有する先入観を同じように持つ必要はない」と述べている(2024年6月28日記事参照)。
また、クリーンビークルに対する税額控除などを規定するインフレ削減法(IRA)については、産業界が米国および北米でEVサプライチェーンへの投資を促進する主要なインセンティブとしてUSMCAを「勝る」と評価しているとした。加えて、新車や商用車購入時の税額控除を定めた内国歳入法セクション30D(2024年5月15日記事参照)や45Wで(2023年9月27日付地域・分析レポート参照)、USMCAのROOを満たすよう基準を設けるべきとの全米自動車労働組合(UAW)の意見も紹介した。
(注1)USTRは報告書作成に向け、2月にパブリックコメントを募集するための公聴会を開催した。
(注2)USMCAの自動車のROOでは、RVCは純費用(ネットコスト)方式で、発効年の2020年の66%から、2021年69%、2022年72%、2023年75%と、段階的に引き上げられた。2019年5月8日付地域・分析レポート参照。
(注3)ただし、報告書では、2023年に関税を支払った輸入の割合は、自動車で前年比0.4%増、部品では同1.3%増だったとして、2022~2023年は横ばいと評価している。
(赤平大寿)
(米国、メキシコ、カナダ、中国)
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