欧州議会、森林破壊防止デューディリジェンス規則改正案を可決、適用1年延期へ(EU)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年11月18日 15時20分
欧州議会は11月14日、森林破壊防止のためのデューディリジェンス義務化に関する規則(2024年3月27日記事参照)の適用開始を1年間延期する改正案(2024年10月7日記事参照)を賛成多数で可決した(プレスリリース)。また、欧州委員会の改正案とは別に、欧州議会の最大会派である欧州人民党(EPP)グループが提出した同規則の修正案も僅差ながら可決された。一方で、EPPが同時提出した、規制対象から貿易事業者を外す修正案や適用開始時期を2年間延期する修正案は、事前に取り下げられた。
可決された修正案の内容は、EU内外の国の森林破壊リスクのレベル分けにおいて、既存の「高・標準・低」に「リスクなし」という新たなレベルを加えるものだ。リスクなしと判断された国から対象製品を供給する場合、デューディリジェンス義務を大幅に緩和。対象製品の種類、取扱量、生産国、供給元・供給先、対象製品が森林破壊によって開発された農地で生産されていないことなどを示す検証可能な情報などを、必要に応じて管轄当局に提出する簡易的な文書要件を課すにとどめる。 現地報道では、域内をリスクなしに指定することで、域内の関連事業者を保護する狙いがあると指摘されている。
なお、改正案と修正案は今後、EU理事会との交渉を経て、正式に採択を受ける必要がある。現行規則は2024年12月30日に適用開始することから、それまでに正式に採択されれば、同規則の適用は、大企業については2025年12月30日から、中小企業については2026年6月30日からに延期される。
欧州議会選挙後の右傾化が早くも表面化
欧州議会では、右派会派による環境関連法への反発が目立ってきている。今回の修正案も、主導した中道右派EPPを除く、社会・民主主義進歩連盟(S&D)グループ(中道左派)、欧州刷新(Renew)グループ(中道、ドイツ選出議員を中心に一部は賛成)、欧州緑の党・欧州自由同盟(Greens/EFA)グループの親EU会派が反対した一方で、EU懐疑派である欧州保守改革(ECR)グループ(右派・一部極右)、極右・右派の欧州の愛国者(PfE)グループ(2024年7月10日記事参照)や主権国家の欧州(ESN)グループ(2024年7月12日記事参照)が、EPPとともに賛成した。
従来、法案の可決にはEPP、S&D、Renewの協力が不可欠だった。しかし、6月の欧州議会選挙により(2024年7月10日付地域・分析レポート参照)、極右を含む右派が過半数を超えたことから、右派のみで法案を可決することが可能となった。今回の採択は、こうした欧州議会の右傾化が端的に表れる結果となった。EPP、S&D、Renewによる連立という基本路線は変わらないものの、個別法案ではEPPがEU懐疑派と協力することは今後もあり得るとみられる。
(吉沼啓介)
(EU)
外部リンク
- EU首脳、産業競争力強化の方針を再確認、欧州委はCSRDとCSDDDの再編の方向性示す(EU)
- 欧州委、森林破壊防止デューディリジェンス規則の適用開始の1年延期を提案(EU)
- 欧州委、加盟国の過半に再エネ許認可の迅速化とCSRDに関する法整備の遅れ指摘(EU)
- 欧州自動車工業会、EV販売の減速受け、CO2排出基準規則の見直しの前倒しを提言(EU)
- ドラギ前ECB総裁、EUの競争力強化に向けた報告書を発表、巨額のEU共同債発行を提言(EU)
- 欧州委、中国製BEVへの暫定的な相殺関税措置を発動(中国、EU)
- 中国、EUの中国製BEVへの相殺関税措置に反対、保護主義的と批判(中国、EU)
- EU、建物の脱炭素化を目指す指令施行、グリーン・ディール産業関連法の実施段階に注視(EU)
- 欧州議会選を前に、グリーン・ディール政策の産業関連法がほぼ成立(EU)
- CBAMの適用基準に戸惑う声多数、ジェトロがセミナー開催(EU)
この記事に関連するニュース
-
仏極右ルペン氏、政権に退陣要求も 生活費高騰に予算対応なしなら
ロイター / 2024年11月21日 10時56分
-
結局「ポピュリズム」とは何なのか...世界中が「極端な政党」に熱狂する理由
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月20日 17時20分
-
米国10州で人工妊娠中絶に関する住民投票、アリゾナ州など7州で権利拡大(米国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年11月19日 0時15分
-
EU首脳、産業競争力強化の方針を再確認、欧州委はCSRDとCSDDDの再編の方向性示す(EU)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年11月18日 0時15分
-
EU首脳、より厳格な移民政策の検討指示、競争力強化策は進展なし(EU)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年10月24日 0時20分
ランキング
-
1“長距離ミサイル攻撃”駐日ロシア大使が批判…西側諸国が「露と戦うということ」
日テレNEWS NNN / 2024年11月21日 18時11分
-
2ロシアがわずか1000km先にICBM発射情報、アメリカへ「核攻撃いとわない」警告か
読売新聞 / 2024年11月21日 20時1分
-
3対人地雷供与はロシアの戦術変更に対応するため 米国防長官
AFPBB News / 2024年11月21日 14時9分
-
4ザビエルの遺体に祈り、インド 10年に1度の一般公開
共同通信 / 2024年11月21日 19時49分
-
5ウクライナ和平案、ロシアは現実的なものなら検討=外務省報道官
ロイター / 2024年11月21日 18時33分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください