インフレ削減法に伴うクリーンエネルギー投資、税の低さなどにより共和党州に偏在(米国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年10月30日 11時50分
米国のインフレ削減法(IRA)に伴うクリーンエネルギー投資が共和党州により多くされている(2024年10月17日付地域・分析レポート参照)。この実態を踏まえ、11月5日の大統領選挙を経てIRAがどう扱われるのか注目を集めている。
共和党州に投資が偏在する理由に関し、「ワシントン・ポスト」紙が分析結果を発表した(同紙10月28日)。分析はマサチューセッツ工科大学(MIT)とシンクタンクのロジウム・グループのデータに基づくもので、2020年の大統領選でトランプ氏を支持した地区の獲得助成金が1,650億ドルで、バイデン氏を支持した地区の540億ドルの3倍で、特に上位10地区のうち9地区が共和党議員の選挙区となっていると指摘する。
その要因として、共和党州では、(1)税金が低く、州による優遇措置が手厚いこと、(2)当局による規制などプロジェクトの遅れにつながる要因が少ないこと、(3)土地が潤沢にあり安いことなどを理由として挙げている。(1)については例えば、ノースカロライナ州で雇用開発投資助成金 (JDIG)プログラムを創設するなど、州独自の取り組みがある。トヨタはこれを活用して4億ドル以上の助成金を受け巨大なリチウムイオンバッテリー工場を建設しているほか、米国バッテリー製造スタートアップのナトロン・エナジーも14億ドル規模のバッテリー製造施設建設を発表するなど、同州ではバッテリー関係の投資が続いている(2024年8月19日記事参照)。
(3)については、特に風力発電で重要な要素と指摘。風力発電には太陽光発電と比べ7~9倍の土地が必要となるほか、風力タービンによる景観や騒音問題などへの対応もあり、人口密度が低く、十分な広さの土地を安価で入手できる地域が好まれる、とする。これは、民主党州である北東部(注)でIRAに伴う補助額が少ない理由にもなっている。北東部は人口密集地が多く、用地の確保が困難で、再生可能エネルギー導入に向け期待されている洋上風力にはさまざまなボトルネック(2023年9月24日記事参照)があり導入が進んでいないため、IRAの恩恵を十分に享受できていない。
こうした共和党州における投資の増大は、IRAの先行きを複雑にしている。大統領選で共和党候補のドナルド・トランプ前大統領は、政策綱領でグリーン・ニューディールの廃止を掲げ(2024年7月9日記事参照)、選挙キャンペーンの中でもIRAの未執行分のとりやめを主張するなど、IRA自体の廃止には至らないまでも、依然として改変のリスクがあるとの意見がある。一方、2024年8月には共和党議員18人が下院のマイク・ジョンソン議長(ルイジアナ州、共和党)に対し、IRAに基づく税額控除を性急に撤廃しないよう求める書簡を送付するなど、共和党内部からもIRAの存続を求める声もあり、その先行きは予断を許さないものとなっている。
(注)人口比率17%の北東部9州(メーン、ニューハンプシャー、バーモント、マサチューセッツ、ロードアイランド、コネティカット、ニューヨーク、ニュージャージー、ペンシルベニア)は、クリーンエネルギー投資全体の4%にとどまっている。
(加藤翔一、藤田ゆり)
(米国)
この記事に関連するニュース
-
米大統領選のトランプ氏勝利で懸念されるアリゾナ州半導体産業への影響(米国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年11月13日 11時10分
-
米国大統領選挙:投資家への影響
Digital PR Platform / 2024年11月8日 10時0分
-
再生可能ブーム、トランプ新政権でも急減速の可能性低く
ロイター / 2024年11月7日 12時47分
-
米財務省、クリーンエネルギー関連部品の生産設備への税額控除に関し最終規則を発表(米国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年10月25日 11時30分
-
米SBエナジー・グローバル、テキサス州で太陽光発電プロジェクトの商業運転開始(米国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年10月24日 1時15分
ランキング
-
1【速報】中国政府 日本人に対する「短期滞在ビザ」免除措置再開を発表
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年11月22日 16時38分
-
2ロシア、ドネツク州ダルネ制圧と発表 ウクライナは認めず
ロイター / 2024年11月22日 13時27分
-
3露の中距離弾道ミサイル発射 米国防総省「事前通知があった」 プーチン大統領は“ウクライナ東部の兵器工場が標的だった”
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年11月22日 11時43分
-
4ロシア、北朝鮮に防空システム供与=韓国政府高官が言及
時事通信 / 2024年11月22日 20時14分
-
5選挙予測大ハズレ、トランプに「大惨敗」...凋落した主流メディアに未来はあるのか
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月22日 12時30分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください