中国、米インフレ削減法をWTO提訴、差別的政策と批判(中国、米国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年4月1日 15時0分
中国商務部は3月26日、米国のインフレ削減法(IRA)と実施細則での新エネルギー車(NEV、注1)などへの税額控除措置について、WTO紛争協議を要請したと記者に答えるかたちで発表した(米国側の反応は2024年3月27日記事参照)。中国の要請について、WTOは3月28日に全加盟国に回覧し公開した(注2)。
2024年1月1日以降、バッテリー式電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHV)の36モデルが同法に基づく税額控除の対象となっている(3月末時点)。対象となるには「北米での最終組み立て要件」やバッテリー部品に関する「懸念される外国の事業体要件」などをクリアする必要がある(2024年1月10日記事参照)。中国からの輸出は対象外と同時に、事実上、サプライチェーンの移転を促進するものとなっており(注3)、中国は保護主義的政策として批判してきた。
商務部は、米国は「気候変動対応」「低炭素・環境保護」などの名目で同法と実施細則を施行し、米国などの特定地域の製品使用を前提とするなど、差別的な補助金政策を行っているとした。その上で、米国は中国などのWTO加盟国の製品を排除し、公平な競争をねじ曲げ、NEVのグローバルな産業チェーン・サプライチェーンを著しくかく乱し、WTOの内国民待遇、最恵国待遇などの規則に違反していると非難した。
また、中国はルールに基づく多角的貿易体制を守り、WTO加盟国が規則の枠組みの下で産業補助金政策を実施し、自国の経済・社会の発展を促進する正当な権利を尊重するとした。その上で、米国がWTO規則を順守し、グローバルなNEV産業の発展の動向を尊重し、差別的産業政策を速やかに正し、グローバルなNEV産業チェーンとサプライチェーンの安定を維持することを促すとした。
3月28日付の「環球時報」は、米国は同法についての韓国、ドイツ、EU、カナダ、ニュージーランドなどからの批判に対し、利益を与えたり圧力を加えたりすることで、WTOへの提訴に発展することを回避してきたと批判し、今回の中国の訴えは国際社会の心の声を反映したものだとした。
対外経済貿易大学国際経済貿易学院の崔凡教授は、同法は米国の特定地域の製品使用を補助金の前提の1つとしており、「懸念される外国の事業体」(2023年12月6日記事参照)の製品を排除しようとしているとした(「第一財経」3月27日)。
(注1)同法では対象となるバッテリー式電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)を「クリーンビークル」と総称しているが、今回の中国側の発表では、対象を「新エネルギー車」と称している。
(注2)WTOの発表では、対象はelectric vehicle, renewable energyとなっている。
(注3)2023年9月25付地域・分析レポート、2023年10月16日付地域・分析レポート参照。
(河野円洋)
(中国、米国)
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