排出量取引制度法が公布(ブラジル)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年12月24日 0時45分
ブラジル政府は12月12日、キャップ&トレード方式の排出量取引制度(ETS)の「ブラジル温室効果ガス(GHG)排出量取引制度(SBCE)」を設立する法律第15042号を公布した。財務省が作成した同制度の原案は2023年8月に上院議会に提出され(2023年9月6日記事、2024年6月12日付地域・分析レポート参照)、法案は11月19日に上下両院で可決されていた。
この制度は、ETSの対象となる全事業者のGHG総排出量〔二酸化炭素(CO2)換算〕の上限(キャップ)を政府が定める期間に対して設定し、そのキャップに対応した排出枠(注1)を発行するというもの。排出枠は年間2万5,000トン以上がGHG排出する対象事業者に対して無償または有償(オークション方式)で配分される(注2)。
これらの事業者は、自社が実際に排出したGHG排出量に相当する排出枠を調達する義務があり、SBCEでの調達義務達成のために政府や他の企業から排出枠の不足分を購入できるほか、ボランタリーカーボン市場で発行されたカーボンクレジットの利用も認められる(注3)。ただし、利用には連邦政府が今後立ち上げる予定の管理登録システムへの登録が必要となる。
制度設計としてキャップは段階的に引き下げられるため、排出枠の総量は発行される度に減少し、排出枠の価格が上昇する見込みだ。これにより、配分された排出枠を超過する企業には、排出枠の調達コストを下げるために、GHG排出量を減らすインセンティブが生まれる(注4)。
なお、GHGを年間1万~2万5,000トン未満排出する事業者もSBCEの対象となるが、排出枠調達義務はなく、自社のGHG排出量のモニタリングと報告のみを行う必要がある。また、財務省が12月12日に発表した資料によると、対象となるセクターは今後特定されるとしているが、新たな要件が設けられる可能性もある。ただし、同法では農畜産セクターはSBCEの対象外となっている。
SBCE実施のための経過措置は次の5段階に分けて行われる。
第1段階:法律の施行から起算して12カ月以内に制度の詳細な規定を設ける(さらに12カ月の延長も可能)。
第2段階:対象事業者が自社のGHG排出量を報告する体制を構築する準備期間。
第3段階(モニタリング期間):全対象事業者にGHG排出量報告、モニタリングを義務づける。期間は2年間。
第4段階:排出枠設定と排出権の配分開始。最初の実施期間では有償のオークションは実施されず、全排出枠が無償で配分される。
第5段階:前段階の最初の排出割り当て計画期間終了に伴うSBCEの完全実施期間。
ブラジルの大企業117社が会員になっている持続可能な開発のためのブラジル経済会議(CEBDS)は12月10日付の公式サイトで、SBCEの設立を歓迎した。一方で、不明な点が多いことも指摘している。例えば、全排出枠が無償で配分される最初の実施期間が明確にされていないことや、対象事業者の排出量が企業グループ単位で計上するのか、もしくは企業の工場単位なのかなど不明瞭で、詳細なルール作りが必要だとCEBDSは強調している。
(注1)排出枠とは、1トンのCO2を排出できる許可を証するもの。
(注2)現地報道では、個々の事業者に対してGHG排出量上限が設定されると説明する記事が多いが、同法では、GHG排出量上限はETS内全体に対して設定される。ただし、上院議会で法案の取りまとめ役を務めたレイラ・バロス議員は自らの公式サイト(2023年10月4日付)で、排出枠が無償で配分されることもあるため、無償で配分された排出枠分を個々の事業者に対するGHG排出量上限としてみることもできると述べている。
(注3)ボランタリーカーボン市場では、再生可能エネルギー導入や森林保全活動などにより、CO2排出を抑制するプロジェクトを通じてカーボンクレジットが発行される。その場合のカーボンクレジットは、CO2を排出できる許可ではなく、プロジェクトによって削減できた(と想定される)CO2を1トン単位で証するもの。
(注4)義務を履行できなかった企業への罰則も設けている。罰金(法人の場合、前年度の粗利益の3%が上限、再違反時は最大4%)、税制恩典や許認可の取り消し、公的機関からの融資の停止、最悪の場合は活動停止など、企業のビジネスに影響を及ぼし得る罰則が可能。
(エルナニ・オダ、中山貴弘)
(ブラジル)
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