日系企業、NSW州ポートケンブラ水素ハブや物流施設を視察(オーストラリア)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年6月10日 0時15分
シドニー日本商工会議所資源・エネルギー部会(以下、JCCIシドニー)は5月29日、オーストラリア・ニューサウスウェールズ(NSW)州のポートケンブラ(Port Kembla)地域で水素ハブに関する現地視察を行った。現地日系企業17社から延べ22人が参加した。製鉄所、港湾などを訪問し、州政府からインフラやエネルギープロジェクトなどの現在の取り組みや今後の計画を聞いた。
ポートケンブラは、シドニーから南方に約100キロの位置にある。ポートケンブラがあるイラワラ地域(Illawarra)は鉄鋼や鉱業が古くから盛んで、鉄鋼大手ブルースコープ・スチール(以下、ブルースコープ)のポートケンブラ製鉄所(注1)がある。また、ポートケンブラ港は、NSW州最大の自動車輸入拠点、国内2位の石炭輸出港として知られ、主要な貨物・物流ハブとなっている。NSW州政府(2021年10月14日記事参照)は、こうした基盤・機能を活用し、2030年までにポートケンブラに水素の国内消費地と輸出拠点という2つの機能を兼ね備えた、5ギガワット(GW)規模のグリーン水素ハブ構築(注2)を目指している。
ポートケンブラの工業地帯の様子(ジェトロ撮影)
州政府の説明によると、今後のグリーン水素ハブ稼働に必要な要素である、(1)原料(水、再生可能エネルギー)の調達、(2)インフラ整備、(3)水素生産とその産業利用、の3点は、以下のとおりポートケンブラ地域で検討・計画(一部は既に稼働)されている。
具体的には、(1)グリーン水素ハブでは、既存の水リサイクル施設で再利用した水と、開発予定のイラワラ再生可能エネルギーゾーン(REZ)(注3)(最大4.2GW規模の洋上風力発電を含む)から供給される再生可能エネルギー電力を使用する。(2)インフラ整備については、民間企業による複数のパイプライン設置計画〔100%水素混合可能なパイプライン、現在は使われていない既存のガス用パイプラインを水素向け(貯蔵用)に転用するパイプライン〕、国内初のLNG(液化天然ガス)輸入ターミナルの建設計画、電力会社エナジーオーストラリアによるタラワラBガス火力発電所(320MW)での国内初のグリーン水素混焼計画(5%)(注4)、などが紹介された。(3)では、国内初の商用水素ステーションである、ガス会社コアガスによる大型トラック用の水素ステーション(天然ガス由来のグレー水素)が2023年7月から稼働したことや、ブルースコープと資源大手BHPグループ、資源大手のリオ・ティントが直接還元鉄(DRI)と電気製錬炉(ESF)による低炭素鉄鋼生産事業の共同検討を行っているという。
ブルースコープ製鉄所内トール・ホールディングスの物流倉庫(ジェトロ撮影)
水素ハブのほか、物流現場の視察として、JCCIシドニーは、日本郵便のオーストラリア子会社で、国内物流大手トール・ホールディングスの倉庫も見学した。ブルースコープ製鉄所構内にある倉庫で、完成品の鉄鋼コイルが国内向けおよび輸出向けに保管されている現場の様子や、輸送工程について担当者から説明を受けた。
(注1)ブルースコープのポートケンブラ製鉄所は1928年設立、年間約300万トン以上の鋼板を生産し、建設資材や風力発電用タワーなどに使われている。
(注2)州政府によると、ポートケンブラ水素ハブでは、2024年末までに金額規模で7億5,000万オーストラリア・ドル(約780億円、豪ドル、1豪ドル=約104円)以上の主要エネルギープロジェクトが完成する予定で、これまでに提案されているグリーン水素プロジェクトの規模は合計で1.7GWだという。
(注3)太陽光、風力などが豊富な適地を再生可能エネルギーゾーン(Renewable Energy Zone:REZ)として区域化し、再生可能エネルギー発電および蓄電を大規模に行う場所。区域の指定・開発はNSW州政府が行う。
(注4)タラワラBガス火力発電所は2024年2月に竣工(しゅんこう)したが、水素の混焼は実現可能性の評価を実施中で、2025年末までの実施を検討している。また、隣接する既設のタラワラA火力発電所(440MW)も発電容量の拡大と水素混焼(最大37%)を目標に改良を計画中。
(青島春枝)
(オーストラリア)
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