米シンクタンク、トランプ次期政権発足後すぐの対中追加関税の実行可能性を指摘(米国、中国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年11月26日 15時55分
米国シンクタンクのケイトー研究所は11月20日、トランプ次期政権下の関税政策の影響や実現性に関する論考を発表した。
同論考では、ドナルド・トランプ氏が主張する中国に対する60%の追加関税や、全貿易相手国に対する10~20%の関税(ベースライン関税)が実行に移された場合、米国の経済的コストは甚大なものとなると警鐘を鳴らした。具体的には、輸入価格上昇に伴う物価上昇により、世帯当たり最大3,900ドルの追加負担が発生するとの試算を紹介した(注1)。特に、米国内で大量生産されていない生活必需品を購入する消費者や、米国外に生産施設を有する製造業者などへの影響が大きいと指摘した。さらに、外国政府が報復措置を講じた場合には、経済的影響が増大する可能性を示唆した。
また、60%の対中追加関税はトランプ氏の大統領就任(2025年1月20日)後、すぐに実行に移される可能性が高いと指摘した一方(注2)、ベースライン関税に関しては、株式市場の混乱やインフレ誘発の懸念を踏まえて、就任後すぐの実行可能性は消極的に評価した。その上で、現実的なベースライン関税実行のシナリオとして、生活必需品、エネルギー製品、半導体製造装置などの特定品目や、自由貿易協定(FTA)締結国からの輸入品を対象外とする可能性を示唆した。このほか、可能性は低いとしつつも、議会上下両院で共和党が多数派を占める議会構成(2024年11月14日記事参照)を踏まえて、議会の税制改革の議論の進展を待って関税発動を判断するシナリオも示した。
企業がトランプ氏の関税政策の実行を見据えて対策を講じている可能性も指摘されている。同論考では、米国通関業者フレックスポートの最高責任者(CEO)ライアン・ピーターセン氏の「顧客は関税引き上げに備えて商品の備蓄を行ってきた」とのコメントを紹介した。また「ウォールストリート・ジャーナル」紙電子版(11月20日)は、中国海関総署の公表データとして、10月の中国の輸出額が前年同月比で12.7%増と、前月(2.4%増)から急上昇したことを挙げ、米大統領選の結果に関する不透明感から、一部の出荷が前倒しされた可能性を指摘している(注3)。
(注1)他のシンクタンクによるトランプ氏の関税政策の経済影響分析は2024年10月23日記事参照。
(注2)戦略国際問題研究所(CSIS)が10月10日に発表した論考では、1974年通商法301条や1962年通商拡大法232条に基づく措置の発動に先立って、米国通商代表部(USTR)や商務省の事前調査が必要としつつ、各閣僚の判断で調査期間の法定上限日数を待たずに短期間で調査を完了することも想定されると指摘し、迅速な発動に至る可能性を示唆している。このほか、トランプ氏の関税政策の法的根拠は、2024年10月15日記事参照。
(注3)他のシンクタンクのイベントでは、在庫積み増しによる短期的なサプライチェーン混乱の可能性も指摘されている(2024年10月21日記事参照)。
(葛西泰介)
(米国、中国)
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