「リチウムイオン電池業界規範条件」改定、製品性能の水準引き上げ(中国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年6月25日 14時25分
中国工業情報化部は6月19日、「リチウムイオン電池業界規範条件」の2024年版を発表した。同規範条件は、リチウムイオン電池業界の企業(注1)を対象とし、生産活動で満たすべき水準などを示したもの。企業は同規範条件に照らして、所在地の工業情報化主管部門を通じ、工業情報化部に自社の状況を申告(注2)。その後、査察、審査を経た上で、条件を満たすと判断されれば「企業リスト」に企業名が掲載される(注3)。ただし、同規範条件は強制力を持たない指導文書として位置付けられており、企業による申告も任意。
同規範条件は、初版が2015年10月に施行され、今回は現行の2021年版(2021年12月施行)に続く3回目の改定。これまでも単純な生産能力の拡大を抑制する方針は一貫して示されており、毎年の研究開発や製造工程の改良にかかる費用が年間売上高の3%を下回らないこと(注4)や、申請時の前年度の生産量が生産能力の50%を下回らないなどの条件も、2021年版から引き続き盛り込まれた。
制定目的に関する記述では、従来の「産業の健全な発展の推進」から「質の高い発展の推進」へと文言が変わり、各製品性能に求める具体的水準は、ほとんどの項目で2021年版から引き上げられた。例えば、車載用の三元系リチウムイオン電池(セル)のエネルギー密度の性能要件は、1キログラム当たり210ワット時(Wh)から同230Whに、リン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池などその他の材料を使用した電池(セル)では、1キログラム当たり160Whから165Whにそれぞれ引き上げられた(注5)。
中国では、新エネルギー車の普及が急速に進む中で、バッテリー式電気自動車(BEV)やプラグインハイブリット車(PHEV)のコア部品の車載電池とその材料を含め、需要が拡大してきた。他方で、EV需要の伸びが鈍化傾向に転じ、電池各社が生産能力の拡大競争を繰り広げてきた結果、電池でも生産能力が過剰との指摘も聞かれる。車載電池業界団体の中国汽車動力電池産業創新連盟(CABIA)の発表によると、中国の2023年の動力電池生産量は前年比21.8%増の664.7ギガワット時(GWh)、販売量は同32.4%増の616.3GWhだった。これに対し、車載電池メーカー大手の寧徳時代新能源科技(CATL)、比亜迪(BYD)の2社が2020~2022年の3年間で公表した国内の車載電池関連投資計画をみると、両者の新規生産能力の合計だけで869GWhに上る(注6)。なお、CATLの2023年度報告書によると、同社の2023年の生産能力利用率は70.5%と、前年の83.4%から低下している(注7)。
また、足元では価格の低下も深刻な状況だ。調査会社ブルームバーグNEF(BNEF)が6月12日に発表したレポートでは、2024年1~4月の中国のLFP電池(セル)価格は1キロワット時(kWh)当たり53ドルで、2023年の世界の平均価格(1kWh当たり95ドル)のほぼ半値となっている。中国の車載電池業界では、今後も性能向上やコスト競争力強化を巡って激しい競争が続くとみられ、淘汰(とうた)の加速が予想される。
(注1)リチウムイオン電池とその主要材料の正極材料、負極材料、セパレーター、電解液の生産企業を対象としている。
(注2)具体的な申請方法などは、同規範条件と併せて改定・公表された「リチウムイオン電池業界公告管理弁法」に示されている。
(注3)「企業リスト」は、工業情報化部のウェブサイトなどで、これまでに第7期まで、以下のとおり公表されている(第1期、第2期、第3期、第4期、第5期、第6期、第7期)。
(注4)2021年版では、「毎年の研究開発にかかる費用が年間売上高の3%を下回らないこと」とされていた。
(注5)製品性能に求める具体的水準は、(注1)の各分野について示されている。うち電池については(1)消費型電池、(2)小型動力型電池、(3)大型動力型電池、(4)蓄電池(家庭用・産業用・再生可能エネルギー用)の4分野に分かれ、車載電池は(3)に含まれると定義されている。
(注6)ジェトロの調査レポート「中国新エネ自動車産業及び車載電池産業の動向調査」(2024年1月)に基づく。
(注7)ただし、海外における生産分も含まれるとみられる。
(小林伶)
(中国)
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