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米USTR、IRAの税額控除に対する中国のWTOパネル設置要請にパブコメ募集(米国、中国)

ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年8月28日 13時0分

米国通商代表部(USTR)は8月27日、インフレ削減法(IRA)に基づく電気自動車(EV)など購入時の税額控除要件に対して、中国がWTOのパネル設置を要請したことに関し、パブリックコメントを募集すると官報で公示した。USTRは、紛争解決手続きが進行中であれば、いつでもコメントを受け付けるが、タイムリーに検討できるよう、9月26日までの提出を促している(注1)。

中国は3月26日に、IRAに基づく税額控除などがWTO協定違反に当たるとして、紛争解決手続きにのっとり、協議を要請した(2024年3月27日記事2024年4月1日記事参照)。両国は5月7日に協議したが解決せず、中国は7月15日にパネルの設置を要請した。中国が具体的に問題視したのは、クリーンビークル(注2)の購入に対する税額控除を定めた内国歳入法30D(2024年5月15日記事参照)、クリーンエネルギー生産に関する税額控除を定めた同48、48E、45、45Yの各条項(2024年6月7日記事2024年6月21日記事参照)。中国は、30Dは北米での組み立て要件や、重要鉱物調達要件、バッテリー部品要件、懸念される外国の事業体(FEOC)の要件が、それ以外は国産部材ボーナスクレジット(2024年5月20日記事参照)が、内国民待遇に関連する関税及び貿易に関する一般協定(GATT)の第3条4項、貿易に関連する投資措置に関する協定(TRIMs協定)の第2条1項と2項、補助金及び相殺措置に関する協定の第3条1項(b)と2項に違反すると主張した。30Dについては、一般的最恵国待遇(MFN)を規定するGATT第1条1項にも違反すると主張している。

米国が中国のパネル設置要請に拒否権を行使したため、現時点でパネルは設置されていないが、WTO協定上、拒否権は1度しか認められないため、中国が2回目の要請をすれば、パネルは設置される(注3)。次回9月の紛争解決機関会合で、パネル設置の再要請が行われるとみられている(米通商専門誌「インサイドUSトレード」8月26日)。

なお、WTOの紛争解決手続きは、パネルで解決できなかった場合に、上級委員会にあらためて審理を行うよう要請できる。だが、上級委員会は米国による新委員の選任拒否によって機能停止に陥っている(2023年8月29日付地域・分析レポート参照)。米国は7月末に上級委員会の委員選任について「懸念は依然として解決されていない」として、指名プロセスの再開を拒否したことから(インサイドUSトレード7月26日)、上級委員会の再開のめどは立っていない。米国は1962年通商拡大法232条に基づく鉄鋼・アルミニウム製品輸入への追加関税措置発動の理由を「戦時その他の国際関係の緊急時」としていたが、2022年にパネルがそれを認定しないと判断したことや、上級委員会の判断が事実上の先例となってWTO協定の解釈を拡大していることなどを問題視している。

(注1)パブリックコメントは、連邦政府のポータルサイト(ID:USTR-2024-0014)から提出可能。

(注2)バッテリー式電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)の総称。

(注3)被申立国は1回目のパネル設置に同意しないことがほとんどとなっている。

(赤平大寿)

(米国、中国)

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