貿易・投資の構造に分断と再編の兆し、2024年版「ジェトロ世界貿易投資報告」発表(世界)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年7月26日 15時10分
ジェトロは7月26日、「ジェトロ世界貿易投資報告」の2024年版を発表した。本報告では、分断と協調の両軸から、貿易や投資の構造変化の実態を分析した。要旨は次のとおり。
世界貿易、3年ぶりに減少
2023年の世界の貿易額(財貿易、名目輸出額ベース)は前年比4.9%減の23兆1,144億ドルとなり、2020年以来3年ぶりの減少となった。貿易数量(輸出ベース)も前年比0.6%減(注1)。地政学的緊張や海上輸送ルートの寸断、エネルギーや食料価格の下落、保護貿易主義的措置の増加などが下振れ要因となった。
米中間の貿易額(輸出額+輸入額)をみると、2023年は16.7%減の5,750億ドルで、過去最高額となった前年から減少した(注2)。他方、中国はリチウム・イオン電池、電気自動車(EV)、太陽電池などを中心に、世界の輸出に占めるシェアを拡大。欧米諸国は、個人消費など内需の低迷が続く中国に対し、同国製品の過剰供給に警戒を強める。
2023年の日本の貿易(通関ベース、注3)は、輸出が前年比4.3%減の7,191億ドル、輸入が13.0%減の7,875億ドル。エネルギー価格の一服で輸入は減少に転じたものの、輸出は円安の状況下でも鈍い動きをみせ、3年連続で貿易赤字となった。
世界の直接投資に分断と再編の兆し
2023年の世界の対内直接投資額は前年比1.8%減となり、2年連続で減少。資金調達環境の悪化などで、クロスボーダーM&Aの実行額が42.5%減となり、2013年以来10年ぶりの低水準を記録した(注4)。欧米諸国による、安全保障を背景とした対内投資へのスクリーニング強化も投資抑制の一因となっている。
また、世界のグリーンフィールド投資は新型コロナウイルス禍前後での投資フローの変化が目立つ。2021~2023年の投資件数をみると、欧米諸国や日本の中国向け投資が2017~2019年に比べて大幅減。中国企業は中東、ASEANへ投資を加速させている(注5)。
2023年の日本の対外直接投資額は前年比4.0%増の1,821億ドルと増加に転じた(注6)。ベトナム、インド向け投資額がともに過去最高額を更新した。いずれも初めて中国向け投資額を上回った。
主要国の政策介入の応酬で企業の対応負担増
補助金や輸出管理、関税措置など、経済安全保障に関わる政策介入が増加している。2023年に世界で導入された通商面での新たな政策介入は4,440件、うち貿易や投資に負の影響を与える「阻害措置」は3,500件超だった(注7)。
中でも、輸出管理は日本企業の経済安全保障上の筆頭課題に挙げられている。特に、米国が拡大強化する輸出管理に対する取り組みを模索する声が高まっている(注8)。
また、環境・人権に関するルールに対して、対応負担の増加を理由に企業からの反発の動きもある。EUで7月25日、「企業持続可能性デューディリジェンス指令」が発効したが、立案過程では、義務を負う企業の対象がより限定的になるように修正された。米国では関連投資に陰りが見え、共和党を中心に反ESG(環境・社会・ガバナンス)運動も過熱している。
本報告の概要はジェトロの記者発表ページを参照。本文は「ジェトロ世界貿易投資報告」ページで公開している。
(注1)世界の貿易額はGlobal Trade Atlasを基にジェトロ推計。数量伸び率はWTOによる。
(注2)Global Trade Atlasの米国の貿易データによる。
(注3)財務省「貿易統計」による。
(注4)国連貿易開発会議(UNCTAD)「World Investment Report 2024」による。対外直接投資額は国際収支ベース、ネット、フロー。
(注5)グリーンフィールド投資はfDi Markets(フィナンシャル・タイムズ)による。投資件数は発表ベース。
(注6)国際収支ベース、ネット、フロー。財務省、日本銀行「国際収支統計」による。
(注7)Global Trade Alertのデータベースに基づく。
(注8)ジェトロが実施したアンケート(ジェトロ主催ウェビナー「経済安全保障-世界の動向と日本政府・企業の対応」参加者を対象に実施、2024年3月7日)による。
(宮島菫)
(世界)
外部リンク
- 週末にかけ外出禁止令はさらに緩和も、安全確保の徹底を(バングラデシュ)
- ルーマニアの小型モジュール式原子炉事業、基本設計の第2フェーズへ(日本、米国、ルーマニア)
- 韓国政府、核融合エネルギー先導国実現に向けた新戦略策定(韓国)
- 第2四半期の米GDP、前期比年率2.8%増と堅調に推移(米国)
- 米商務省、イラン向け輸出管理を強化、無人機など対象に(米国、イスラエル、イラン)
- バイデン米大統領が国民向け演説で「次世代にバトンを」、民主党は新たな指名プロセス発表(米国)
- 外出可能時間帯の人出が増加、銀行は混雑、食品調達は可能(バングラデシュ)
- 日本外務省、バングラデシュの危険レベルを2に引き上げ、学生デモ発端の治安悪化受け(バングラデシュ)
- 米大統領選、ハリス副大統領がウィスコンシン州で選挙キャンペーン開始(米国)
- 日本とアンゴラとの投資協定が発効、投資関連協定は50件突破(アンゴラ、セルビア、日本、アフリカ、欧州)
この記事に関連するニュース
-
韓国、2024年上半期の輸出は好調、通年で過去最高の輸出実績を目指す(韓国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年7月26日 0時45分
-
6月の貿易赤字は210億ドル、赤字幅が前月より縮小(インド)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年7月26日 0時10分
-
2024年上半期の貿易、輸出入ともにプラスに転じる(台湾)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年7月23日 0時0分
-
2023年の中東・北アフリカの郷里送金受入額、前年比14.8%減の550億ドルに(中東、エジプト、レバノン、モロッコ、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、湾岸協力会議(GCC)、アフリカ)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年7月3日 0時10分
-
2023年のサブサハラ・アフリカの郷里送金受取額は前年比0.3%減の540億ドル(アフリカ、ナイジェリア、ケニア、ガーナ、ジンバブエ、セネガル、コンゴ民主共和国、ウガンダ)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年7月3日 0時5分
ランキング
-
1仏高速鉄道で破壊行為、80万人影響=五輪開会前に運行大混乱、旅行客足止め
時事通信 / 2024年7月26日 21時41分
-
2フランス高速鉄道で破壊行為、運行乱れ80万人に影響 五輪開会式直前
ロイター / 2024年7月26日 21時16分
-
3韓国、「佐渡島の金山」の世界遺産登録に反対しない方針…「日本が全体の歴史反映すると約束」
読売新聞 / 2024年7月26日 12時56分
-
4日本人襲撃で死亡の胡さんに称号=中国共産党
時事通信 / 2024年7月26日 19時59分
-
5「世界で最も安全な旅行先」7位に韓国ソウル、1位に選ばれたのは?=韓国ネット「うらやましい」
Record China / 2024年7月26日 7時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)