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製鉄所の排熱から水素生産する実証実験が成功(オーストラリア)

ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年12月10日 0時40分

オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)は11月28日、ニューサウスウェールズ州にあるオーストラリア鉄鋼大手ブルースコープ・スチールのポートケンブラ製鉄所で、新しい水素生産技術〔管状固体酸化物電解(tubular solid oxide electrolysis:tSOE)〕の実証試験に成功したと発表した。この実証試験は、CSIROとCSIROのスピンアウト企業ヘイディアンエナジー(Hadean Energy)、ブルースコープの連携により2024年10月に開始し、実証実験の累計稼働時間が1,000時間に達した。

CSIROによると、通常、グリーン水素生産に必要な装置の電解槽は水から再生可能エネルギー由来の電力を利用して水素を作るのに対し、tSOE技術の電解槽は工場などの排熱(例えば、蒸気)から電力を利用して水素を生産する(注1)。tSOE技術の最大のメリットは効率性に優れていることだ。通常のアルカリ型およびプロトン交換膜(PEM)型電解槽でグリーン水素を生産する場合と比較して、電力消費量を最大30%(注2)抑えることができる。今回の実証試験では、ポートケンブラ製鉄所から排出される蒸気が活用された。実証結果では、36キロワット時(kWh)未満の電力で水素1キログラムを生産することが可能となった。

CSIROの上級首席研究員兼グループリーダーのサーブ・ギディ博士は「グリーン水素の生産コストの大部分は電力が占めているため(注3)、水素生産に必要な電力を大幅に削減できれば、新しい水素産業にとってゲームチェンジャーとなり得る」と述べた。

また、ヘイディアンエナジーは、CSIROからtSOE技術のライセンスを取得し、産業の脱炭素化の加速を目指す企業だ。今回の実証試験でモジュール(部品)設計の長期耐久性と性能の試験を担った。2023年7月31日に発表された英国政府とオーストラリア連邦政府の共同助成プログラム「オーストラリア・英国の再生可能水素イノベーションパートナーシップ(Australia-UK Renewable Hydrogen Innovation Partnerships)」の採択企業でもある。同社は今回のポートケンブラ製鉄所での実証試験の結果と同助成金を活用し、フランス電力(EDF)が運営する英国の発電所で5キロワット(kW)の小型電解装置の実証を行う準備をしている。

(注1)CSIROのtSOE技術のページによると、通常のアルカリ型およびプロトン交換膜(PEM)型電解槽装置では、水素1キロを生産する際の電力消費量が60キロワット時(kWh)程度だが、tSOE技術では42kWh未満となるという。

(注2)科学技術振興機構の調査報告書(2024年3月)によると、SOE技術を使った電解槽はセラミック電解質を使用し、電気化学反応で蒸気を水素と酸素に変換する。

(注3)PwCオーストラリアのレポートGetting H2 rightの分析によると、グリーン水素生産コストの50~70%が電力となっている。

(青島春枝)

(オーストラリア)

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