電力部門国家戦略を発表、民間発電事業者にも配慮(メキシコ)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年11月14日 1時5分
メキシコ政府は11月6日、「電力部門国家戦略」を発表した。クラウディア・シェインバウム大統領の早朝記者会見内で、ルス・エレナ・ゴンサレス・エネルギー相が解説した。許認可不要の自家発電の上限が引き上げられるなど、民間事業者への配慮が盛り込まれた一方で、電力庁(CFE)の投資計画に関しては、財源不足を理由に実現可能性を疑問視する声が上がっている。
本戦略の4つの軸は次のとおり。
1.国家電力部門の計画立案の強化
2.電力部門における公平性の担保
3.強固で信頼できる安全な電力系統の構築
a.2024~2030年の間に、CFEが234億ドルの投資を行う。内訳は、(1)発電事業に123億ドル〔1万3,024メガワット(MW)の発電能力の増強〕、(2)送電事業に75億ドル、(3)配電事業に36億ドル。
4.民間部門による投資を確保・促進するための明確なルール制定
a.民間発電事業者による参画率を46%までに制限する(CFEが54%以上)。
b.民間事業者による自家発電・自家消費の方法や、発電事業への参画方法に関する方針を策定する(後述)。
c.投資を促進するための手続きの簡素化や、窓口の一本化を推進する。
上記4.b.について、民間企業の自家発電・自家消費に関するポイントは以下のとおり。
1.一般家庭や小規模事業者が許認可なしで自家発電できる電力(分散型電源)の上限を0.5MWから0.7MWに拡大。
2.工業団地や工場などが電力系統に繋がず自家消費することを条件とする0.7~20MWの自家発電(注1)への許認可付与。今後、新しい工業団地や新興開発地域のニーズによって上限を変更する可能性がある。
3.電力系統につないで送電する必要がある発電事業(注2)に対し、透明性のある送電インフラ利用料を課す。
続いて、民間の発電事業者の参画方法は次の3つとされている。
1.入札を経た長期売電契約によるCFEへの電力供給。
2.少なくとも54%をCFEが出資する「混合発電事業者」なる事業形態。
3.電力卸売市場(MEM)における、信頼性の要件(注3)を満たしつつ、国家エネルギー計画に沿った参画。
11月8日にジェトロがメキシコ競争力研究所(IMCO)に実施したヒアリングによると、「発電許可が不要な分散型電源の上限引き上げを含め、前政権と比較してより民間部門に開かれた電力市場になるのでは」と、本戦略に対する前向きな見方がうかがえた。一方で、「CFEの234億ドルの投資実現に向けた財源確保が疑わしい」など、実現性に懐疑的な報道も存在する(「エル・エコノミスタ」紙11月7日)。
いずれにせよ、民間事業者の参画に関する詳細は、今後発表予定の二次法を待つ必要がある。同二次法は、11月1日に発効したCFEおよび石油公社(PEMEX)を再度、国営企業とする憲法改正(注4)を根拠としている。その発効から180日以内に連邦議会が二次法を定めることとされているが、2025年初頭には発表されるという見方もある。
(注1)現行法の電力産業法(LIE)第22条が定める「送配電網の利用を伴わない自家発電(Abasto Aislado)」のこと。現行法体系下で上限は設定されていない。アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)前政権下では、発電許認可付与にあたって「自社の必要性」の解釈が厳格化され、使いにくい制度となっていた(2022年1月19日記事参照)。
(注2)現行法体系では、第三者への売電も可能な発電事業のこと。AMLO政権下ではCFEによる発電を優先し、民間事業者に対する発電許認可が円滑に付与されることはなかった。
(注3)エネルギー省によると、グリッドコードを順守し、太陽光や風力などの間欠性電源の場合、30%のバックアップ電源を用意する必要がある。
(注4)エンリケ・ペニャ・ニエト政権下の2013年末に実現したエネルギー改革により、CFEとPEMEXは「独立採算型国営企業(Empresa Productiva del Estado)」というステータスとなり、国営企業でありながら、民間企業と対等に競合する立場となった。これを再び純然たる「国営企業」のステータスに戻し、民間企業よりも優先できるようにした。AMLO前大統領が2024年2月5日に国会に提出した憲法改正案(2024年2月7日記事参照)の1つ。
(渡邊千尋)
(メキシコ)
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