欧州会計検査院、国家補助緩和の影響評価と監督強化を提言(EU)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年11月1日 1時20分
欧州会計検査院(ECA)は10月24日、EUの産業政策における国家補助は、加盟国からの情報提供が不十分で、域内市場への影響が十分に分析されていないと警告した(プレスリリース)。
EUでは、加盟国による企業への国家補助は、域内の競争条件を不当にゆがめる可能性があるため原則禁止されており、一定の条件を満たす場合にのみ、欧州委員会による審査の上で認められている。しかし、欧州委は2020年以降、新型コロナウイルス対策(2022年10月19日記事参照)、ロシアによるウクライナ侵攻による経済的混乱の是正(2022年7月13日記事参照)や、グリーン・ディール産業計画における産業支援策(2023年3月15日記事参照)として、国家補助を大幅に緩和。この結果、新型コロナ危機以前は年間約1,200億ユーロほどだった国家補助の承認額は、2020年と2021年にそれぞれ3,200億ユーロを超え、2022年には約2,300億ユーロとなった。
こうした中、ECAは、欧州委は各加盟国の国家補助の実態と単一市場の競争条件に与える影響を十分に把握していないと指摘した。緩和策の一環として審査手続きを合理化した結果、加盟国が詳細情報の提出なしに国家補助措置の実施が可能になったことや、欧州委に未通知の事例を把握するための体系的な制度がないなどの問題点を挙げた。
このほか、国家補助の緩和策はEUの戦略的自律の強化やネットゼロ経済への移行といった産業政策の財政支援策として重視されている点に関し、複数の緩和策により複雑化した国家補助規制は整合性が確保されておらず、十分な経済分析も行われていないと指摘。財政支援策における加盟国レベルでの国家補助への偏重は域内の競争条件をゆがめるとして、EUレベルの財政支援の拡大を提言するレッタ報告書(2024年4月25日記事参照)を支持した。
欧州委は2025年以降、次期中期予算計画(MFF)案と合わせ、EUレベルの大型産業支援策「欧州競争力基金」(2024年7月30日記事参照)を提案するとみられる。グリーン・ディール産業計画における緩和策は2025年末までの暫定措置であることから、今後、EUにおける域内産業の強化に向けた財源の在り方を巡る議論が本格化しそうだ。
(大中登紀子、吉沼啓介)
(EU)
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