スリランカの黒鉛に海外企業が注目、背景に米中対立(スリランカ、米国、中国、インド)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年5月31日 1時15分
スリランカの黒鉛(グラファイト)に対して、海外からの関心が高まっている。中国、米国、インド、フランス、カナダ、オーストラリアの企業がスリランカの黒鉛への投資に対して関心を示しており、スリランカ地質調査・鉱山局はインド政府と黒鉛鉱床の探査・採掘技術の開発協力について協議した、と報じられている(「デイリーミラー」5月27日)。なお、同局の担当者は、インドがスリランカの黒鉛鉱山の取得を進めているという一部の報道については否定した(「ザ・デイリー・モーニング」5月27日)。
黒鉛は、導電性や潤滑性が優れており、電池用電極や鉛筆の芯などに使用される。近年では、電気自動車(EV)に使われるリチウムイオン電池負極材としての使用も増加している。スリランカでは、天然黒鉛の中でも純度の高い塊状黒鉛が世界で唯一産出するなど、品質の評価が高い。
黒鉛の世界最大の生産・輸出国の中国では、2023年12月から輸出管理措置を実施している(2023年10月26日記事参照)。米国では、バッテリーのサプライチェーンから中国を除いた生産体制の構築を目指しており、電池メーカーは黒鉛の調達先見直しを進めている(2024年2月16日記事参照)。米国はインフレ削減法(IRA)の下で、特定の国が関与するバッテリー用の重要鉱物や部品を含む車両について、クリーンビークル(注)購入時の税額控除を対象外とし、米国または米国が有効な自由貿易協定(FTA)を締結した国からの調達を図る方針だが、黒鉛は適用開始が2027年1月1日まで延期された(2024年5月15日記事参照)。
スリランカでは、需要が拡大する海外市場への輸出の期待が高まっている。しかし、スリランカは米国とFTAを締結しておらず、IRAの下では、スリランカで調達した黒鉛は「適格な重要鉱物」として認められない。このため、スリランカ国内では、米国との重要鉱物協定の締結や、米国が有効なFTAを締結した国との連携を求める声も上がっている。
日本も黒鉛の輸入を中国に依存しており、財務省貿易統計によると、2023年の中国からの黒鉛(HSコード2504.10および2504.90)輸入額は103億8,590万円で、黒鉛輸入総額の90.1%を占める。日本にとってスリランカは、中国、マダガスカルに次ぐ輸入相手国で、2億6,541万円(総額の2.3%)を輸入している。
(注)バッテリー式電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)の総称。
(大井裕貴)
(スリランカ、米国、中国、インド)
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